研究課題/領域番号 |
19K22025
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
三輪 空司 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (30313414)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 超音波 / 非破壊検査 / 加振 / ドップラ / PC構造物 |
研究実績の概要 |
本研究はPCコンクリート構造物において,鋼棒保護用シース管の充填剤の充填不足を評価するため,鋼材を電磁加振し広帯域超音波法における鋼材反射波のドプラエコーから、PC鋼材の劣化を評価する手法を検討することであり,以下の三点に着目して研究を実施した。 (1.広帯域超音波ドップラ計測システム開発) まず100kHz,250kHzを中心とする2種類の超音波センサにより広帯域超音波法のシステム構築を行った。ファンクションジェネレータにより,帯域幅200kHz程度のバースト波を生成し,送信アンプにより±150Vまで増幅したのち,センサに印可する。受信信号はプリアンプと作動アンプにより60dB増幅した後,2MHzのサンプリング周波数のAD変換機により受信波形を取得可能なシステムを開発した。 (2.加振による鋼材の振動数値解析法の開発) 従来法では加振に用いる励磁コイルには珪素鋼板を用いたコの字型のコイル形状を用いており、従来法で加振計測可能な深度は60 mm程度であった。そこで,本年度では、FEM解析を用いコイル形状やコア素材を変えることで80 mmの加振計測が可能なシステムの開発を目指した。コア素材については透磁率の高い素材を用いても加振力は向上せず,透磁率を下げてもできるだけ飽和磁束密度の高い珪素鋼板を用いた方がよく,形状はハーフトロイダル型で,断面形状は概ね正方形,コイル幅をできるだけ短くし,深い鉄筋には半径の大きいコアを用いる方が良いことがわかった。 (3.PC供試体、実橋梁での実験的検討) PC供試体を模擬するため,樹脂製と鋼製のシース管(直径40mmm)内に直径20mmのPC鋼棒の有無,シース管内部のモルタルで充填有無の6種類の供試体を作製した。また,中空の供試体内に鋼棒を吊り下げ,加振による振動変位をレーザ変位計と加振レーダ法により比較し,加振振動の妥当性について検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)はではこれまでの加振レーダ計測の経験から,反射体の数ミクロンの振動を数cmの波長の波のドップラとしてとらえる場合, 60dB以上の反射波のSN比を必要とすることがわかっている。今回開発した広帯域超音波計測システムではパルスを繰り返し計測することでSN比を向上させ,1秒間の計測で作成したPCコンクリートの反射波のSN比が60dB以上となることは確認できた。また,1秒の計測中に鋼材を単一周波数で加振することで,鋼材の振動によるドップラ成分も確認できたことで,加振による鋼材の超音波ドップラエコ―信号が計測可能であることは確認でき,本年度の目標以上の成果が得られた。 (2)ではかぶり10 cmを加振可能なコイルの作成を目標とするが,そのためには6倍程度の加振力向上が求められる。当初,珪素鋼板に比べ10倍の透磁率をもつファインメットをコアに用い,加振力向上を期待していたが,透磁率による大幅な向上は困難であった。そこで,FEM解析により最適コイル形状の設計方針を検討し,一定の設計指針が得られた。このシミュレーションでは一部実験によるBH曲線を計測した結果をシミュレータで考慮することで,実験と数値計算の加振力がよく一致することも確認できたことは大きな成果である (3)は本手法の有効性を実験的に検証する研究でありPC構造を模擬した供試体を作製し,供試体内の加振力や振動変位をフォースゲージやレーザ変位計で独立に取得し,加振レーダ計測における振動変位と比較する手法を開発できた。また,FEMシミュレーションによる振動変位評価の検討も行い,実験値と概ね一致することが確認でき,当初の目標は達成できた。 これらのことから,研究は概ね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
(1)では来年度,超音波計測装置において,加振した信号のドップラ信号を精度よく計測するための安定な基準信号の開発や,その同期法の検討を行うことで,ジッターに起因する雑音源を低減する。また,現在のAD変換機では最大計測データ長に制限があり,長時間の計測によるSN比の向上が難しい。そこで,変調超音波信号を受信する際にその搬送波で直交検波してダウンコンバートし,サンプリング周波数を下げることで,計測時間を稼ぎ,SN比の向上を図ることが必要である。また,加振周波数について従来の50Hzだけでは加振周波数による周波数依存性の影響を考慮できないため,多周波での加振が可能な加振システムも構築し,劣化評価のパラメータの一つとすることを検討する。 (2)では,本年度の設計をもとに10cmまでを加振可能なコイルを試作する。超音波計測は接触式であり,頻繁にコイルを移動する必要はないため,大型のコイルでも構わない。そこで,内径を現状の125 mmから、185 mmにすることで30%、足幅を37.5 mmから60 mmとすることで10%、コイル角度を100度以下にすることで6%程度,トータルで約1.5倍性能を向上させる。また、電流と巻数の積は現状10A×500=5000Aであり、これを倍増すれば4倍の加振力増加が見込めるが、磁気飽和するようであれば、奥行き方向にコアの厚みを増やすことでコア断面積を増やすことで対応する。これにより、現状の6倍程度の加振力を実現し, 10 cmまでを1kHzまでの多周波で加振可能な励磁コイルの試作を行う。 (3)では,本年度実験で得られた振動変位と,FEMシミュレーションにより電磁界と弾性解析の連成によりPC鋼の振動変位を計算し,実験値と比較することによりシミュレーションの妥当性を評価する。また,シース管内の充填状態が段階的に異なる場合の振動変位の評価を行う。
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