Heイオンを純銅に照射すると表面に酸化物結晶や酸化皮膜の形成が抑制する現象を見出した。もし、この現象が銅の格子間位置や粒界にHe原子が存在することによって酸素の拡散経路を塞ぎ酸化を抑制しているとすれば、プリント基板や端子として現在使用している銅の酸化抑制に画期的な腐食防食法となり電子部品の長寿命化や環境低負荷に貢献できると考えられる。 そこで、本研究では、Heイオン照射による酸化抑制機構について解明するため、純銅にHeイオンを照射後大気中で低温酸化とNaOH水溶液中で室温参加させ、Heイオン照射量による銅表面や内部の微細組織や微細構造の変化について、本学の収差補正走査透過型電子顕微鏡を使用して酸素の存在状態を原子レベルで観察し電子エネルギー損失分光(EELS)とエネルギー分散型X線分光(EDS)分析をおこなった。また、昨年実施したイオン種による欠陥形成や格子内の歪等の違いによる酸化挙動を比較検討するために実施したArイオン照射に加えて、イオン種自身による還元効果も期待できる水素イオン照射も実施し比較検討を行った。 10(w)×10(l)×1(t)mmの純度99.9% Cu多結晶の表面を加工硬化層等が形成しない様にエメリー紙による研磨とアルミナ懸濁液によるバフ研磨で鏡面とし、昨年までより深くHeイオンが注入される様に200keVのHeイオンあるいは同様な注入イオン分布になる様に水素イオン(水素分子で1価の正イオン)は115keVで1×10^16 ions/cm^2オーダーを目標にマスクを用いて行った。大気中200℃における低温酸化の結果、目視で未照射量域は色が変化しておりラマン分光からCu2Oのピークが観察された。一方、照射領域は未照射領域と異なり照射前と同様な色を呈し、Cu2Oのピークは観察できないか明瞭でない程度の変化を検出できる程度であったことから、酸化抑制効果を確認した。
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