アルミニウム合金や炭素鋼などの固溶体合金は、過飽和固溶状態から低温で時効を施すことによりクラスタと呼ばれる合金元素の集合体が形成され、材料の強度上昇を引き起こすことが知られている。クラスタの存在を確かめる手法は三次元アトムプローブ等、種々存在するが、いずれも破壊解析であり、クラスタの核生成から成長までの経時変化については解明されておらず、解析手法も確立されていないのが現状である。そこで本研究では、時効生成物により力学応答が異なることを利用して、材料の塑性変形を担う線状欠陥である「転位」をクラスタ形成の検出プローブとして用いる動的解析手法を確立することを目的として研究を実施してきた。 2021年度は、研究代表者の研究チームでは本研究で設計・作製した小型クリープ試験機を用いて対象合金であるAl-Mg-Si合金の溶体化材を用いた時効温度でのクリープ試験を実施した。本研究で作製した小型クリープ試験機を用いると、一般的なクリープ試験機では測定が困難な極低ひずみ速度のクリープ変形を捉えることができることが確認できたが、クラスタや析出物が形成する時間での力学応答を明確には捉えることはできなかった。また、研究分担者の研究チームでは、種々の時効条件で熱処理を施したAl-Mg-Si合金の引張試験中の電気抵抗測定手法を確立し、存在する時効生成物の違いでその挙動が変化することを明らかにした。透過電子顕微鏡による組織観察も並行して行い、時効生成物の存在状態と力学特性、電気抵抗率変化の関係を検討した。 研究期間全体を通じて、転位をクラスタや析出物形成の検出プローブとして動的解析手法を確立することには課題が残ったが、作製したクリープ試験機や確立した電気抵抗測定その場解析手法に対して、適切な対策を講じることによって、目標達成に進めることができると考えている。
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