研究課題/領域番号 |
19K22037
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
貝沼 亮介 東北大学, 工学研究科, 教授 (20202004)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | CuAlMn系合金 / オーセチック特性 / 形状記憶特性 / 異常粒成長 / 単結晶 |
研究実績の概要 |
通常の材料では、引張応力に対し垂直な方向では縮む正のポアソン比を示すが、一部のポリマー繊維を始めとしたオーセチック材料では、垂直方向が膨らむ負のポアソン比を示すことが知られている。オーセチック特性は、異方性はあるもののB2型金属間化合物(IMC)単結晶でも生じることが第一原理計算により予測されておりFeGaで実験的にも証明されている。今後、強度と靭性を具備したIMC単結晶が安価に得られるなら、機械的ダイオードといった新しい機能を有するデバイスへの応用が可能となる。本研究はCuAlMn合金を対象に以下の研究を行い、実用材としての適用可能性を検討する。今年度は、以下の様な成果が得られた。 (1)集合組織の制御:CuAlMn合金において冷間溝ロールおよび線引き加工により予想通り<110>集合組織が得られた。また、加工度を大きくすることで方位のずれは<110>への集積度をより高めることが判明した。(2)単結晶熱処理:無集合組織材では超巨大結晶粒が得られることが分かっている。そこで、(1)で得られた集合組織材においても同様の異常粒成長が生じるかを調査したところ、集合組織からでも<110>に近い単結晶が得られることが判明した。(3)オーセチック特性:2.で得られた単結晶試料から様々な方向の板材を切り出し、引張試験で歪ゲージによりオーセチック特性を調査した。その結果、LD=<110>に近い試料について、<110>に垂直な<-110>や<001>において負のポアソン比を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の研究計画では、以下の5項目を目標として掲げていた。 (1)LD=<110>集合組織を形成するための加工熱処理条件を明確にする。(2)LD=<110>単結晶を効率的に得るためのサイクル熱処理条件を明確にする。(3)得られたLD=<110>単結晶について、歪みゲージを利用してオーセチック特性を評価する。(4)共振法により単結晶試料の弾性定数を測定し、その結果と実験結果を比較する。(5)以上のプロセスを用いた場合のおおよその製造コストを見積もり、機械ダイオードといった用途への実用可能性を検証する.これらの内(1)~(3)までを初年度の目標としていた。(1)では、加工熱処理の外注に時間をとり、また(3)については試料へのひずみゲージの接着の仕方により歪の値が大きく変動するトラブルがあり、数か月にわたる時間のロスとなった。現在は、この問題は解決し途中経過までについて論文化することができたが、研究の推進状況としてはやや遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
予定通り上記5項目の内、(3)~(5)を中心に研究を推進する。 (3)オーセチック特性の評価:LD<110>に近い方位での特性は理論通りにポアソン比の異常が確認できた。そこで、本年度は LD<110>からの結晶方位のずれが、特性にどの程度の影響を与えるか明確化する。ポアソン比がゼロとなる方位についても具体的に実験で確認する。 (4)弾性定数の測定: CuAlMn単結晶について共振法を用いて各種弾性定数を調べ、理論ポアソン比を算出する。また、その結果と(3)ですでに歪ゲージにより得られた実測値と比較してその様な異常な特性が何に起因するかを考察する。この時、もし理論と実験値の差が大きい場合には、走査電子顕微鏡を用いてサブグレイン組織を観察し、サブグレイン組織の有無による弾性特性への影響を明らかにする。 (5)用途と製造コストの検討:差し込みは簡単だが抜くことができないといった機械ダイオード(機能性ファスナー)に関して、実用化に最も適する形態について検討する。また、ファスナー以外の用途も検討し、それらの製造プロセスに要するおおよその費用を算出して実用可能性を評価・検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
先に記したように、今年度は機械加工やひずみゲージに関するトラブルがあり、研究の推進が不十分であり物品費などの十分な予算消化ができなかった。 新年度は、(3)で記したLD<110>からの結晶方位のずれについての研究も行う事からより多くの機械試験用試料を作製して実験を実施する。そのために、溶解用金属素材、溶解用るつぼ、ひずみゲージといった物品費を計上する。また、機械ダイオードの実験には、大きな単結晶試料と精密な精度の機械加工が求められることから、熱処理や加工に関する外注も多くなることが予想され、外注費としても予算計上する。
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