研究課題/領域番号 |
19K22043
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
谷川 智之 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (90633537)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 多光子顕微鏡 / 転位 / 窒化ガリウム / シリコンカーバイド / ハイパーラマン散乱 |
研究実績の概要 |
多光子励起過程を利用したフォトルミネッセンスとハイパーラマン散乱を検出するための光学測定系を構築した.フォトルミネッセンスを得るためには多光子吸収によるバンド間遷移が必要で,そのためには先頭値の高いパルス光が必要となる.一方,パルス幅が極めて狭い場合,波長線幅が広くなってしまい,ラマンシフトを検出しづらくなってしまう.そのため,ハイパーラマン散乱を測定するためにはパルス幅の長い光源が必要となる.これを満たすため,励起光源は,パルス幅を200 fsから20 psまで制御可能な波長1030 nmのパルスレーザを導入した.このとき,ハイパーラマン散乱は半分の波長である515 nm付近に現れる.この波長域で高い波長分解能を持つ分光器とCCD検出器を選定し,分光器は研究室で保有する既存設備を導入し,本研究予算でCCD検出器を購入した. また,パルス幅がフェムト秒のレーザをGaNおよびSiCに照射し,試料から出射される発光スペクトルを測定した.GaNの場合はSHGはほとんど発生しなかったものの,イエロールミネッセンスが500~600 nmあたりに発生し,ハイパーラマン散乱においてバックグラウンドノイズとなることが分かった.SiCでは,特に積層欠陥が形成される箇所において強い第二高調波が発生することが分かった.この第二高調波は波長線幅が10 nm程度と広く,わずかなピークシフトを検出するためには波長線幅を狭くし,第二高調波をノッチフィルタ等で除去する必要があることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,多光子励起フォトルミネッセンスにより転位の位置を特定し,ハイパーラマン散乱で深部の歪場を測定することを目的としている.多光子励起フォトルミネッセンスとハイパーラマン散乱を同位置で測定するためには,パルス幅をフェムト秒からピコ秒まで可変な励起光源と,515 nm付近で高い波長分解能を有する分光器および検出器の導入が必要であった.前者について,当初は光源側の光路を二つに分け,分光器によりフェムト秒レーザを分光することで波長線幅を狭くする光学系を提案していたが,共同研究先からの寄付によりパルス幅可変レーザを導入することができ,より簡易な光学系を構築することができた.後者について,分光器を研究室の既存設備を利用し,検出器を本研究費で導入することで,測定系を構築することができた.この光学系を利用して,フォトルミネッセンスと第二高調波発生についてGaNおよびSiCから発生する光を検出することができ,これらの一部はハイパーラマン散乱測定に影響を与えることが分かった. 以上の結果から,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
はじめに固定位置におけるハイパーラマン散乱スペクトル測定を行い、十分なシグナル/ノイズ比を得るためのパルス幅や励起強度などの条件を明らかにする。次に、入射方向をc面方向やm軸方向と変化させ、ハイパーラマン散乱で格子振動との相互作用が許容となる選択則を実験的に明らかにする。次に多光子励起フォトルミネッセンスマッピングとハイパーラマン散乱マッピングの同位置測定を行う。ハイパーラマン散乱マッピング測定では、ピークシフトを検出してマッピング測定を行うため、分光測定が必要であり測定に時間がかかる。一方、多光子励起フォトルミネッセンスマッピング測定では高いシグナル/ノイズ比で広範囲の像を取得ができる。 これらの特徴を合わせて、マッピング測定は以下の手順で実施する。まず、多光子励起フォトルミネッセンス測定により三次元像を取得し、転位の空間座標を特定する。次に、転位線を中心として5 μm以内の範囲についてハイパーラマン散乱マッピング測定を行う。ピーク位置からラマンシフト量を求め、歪場を求める。転位のバーガースベクトルを推定し、歪場を計算により求める。最後に計算結果と実験結果と照合する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ハイパーラマン散乱を測定する光学系を構築するにあたり,高感度CCD検出器の導入を予定していた.研究開始とともに機器選定を見直したところ,より安価な検出器で仕様を満たすことが分かり,残額が生じた.一方,目的とするハイパーラマン散乱以外の信号を除去するためにはダイクロイックミラーやノッチフィルターなどの光学素子が必要な可能性があり,次年度に様々な条件で測定を行いながらこれらの選定を行う必要があることが新たに判明した. 次年度分として予定していた予算は,測定にかかる消耗品費と成果を発表する国内旅費である.このうち,国内旅費はコロナウイルス感染症にかかる活動自粛により予定より少額で済む可能性があるが,代わりに論文投稿料に充てる.それ以外に,前述の光学素子を新たに購入するための予算として使用する.
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