研究課題/領域番号 |
19K22044
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
多田 朋史 九州大学, エネルギー研究教育機構, 教授 (40376512)
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研究分担者 |
洗平 昌晃 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 助教 (20537427)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 動的モンテカルロ法 / 網羅的素過程探索 / ヘテロ界面 / 非平衡シミュレーション / マルチカノニカル法 |
研究実績の概要 |
第一原理電子状態計算の進歩によりバルク材料物性の高精度予測が可能となったが、デバイスとしての性能を議論する際に重要であるバルク材料と他相(気相、液相、固相)との接合界面(ヘテロ界面)に関しては計算技術の飛躍的進展が必要とされている 。これは、原子、分子、イオンが各相に流れ込むことによる不定比組成状態がヘテロ界面に出現することに加え、各素過程に依存した反応・拡散速度の違いによる非平衡性のため 、ヘテロ界面の実態を微視的に決定することが極めて困難なためである。既存の第一原理分子動力学計算では到達不可能な時空間スケールの現象である。よって、ヘテロ界面の正確な微視的モデリングからデバイス設計への道筋を確立するためには、第一原理電子状態計算を利用した網羅的素過程探索と、気液固複合相の非平衡状態を記述できる長時間ダイナミクス手法との融合が必須である。本研究は、代表者開発の大規模開放系動的モンテカルロ法と分担者開発のマルチカノニカル法を発展的に融合することで気液固複合相ヘテロ界面の実在系非平衡シミュレーションを実現し、新しい計算技術の潮流を生み出すことを目的とした研究である。 上記の目標を達成すべく、令和二年度は代表者による動的モンテカルロ法と液体状態を記述するための動力学手法を融合したハイブリッド手法を構築することに成功しテスト計算として金属リン酸複合系のプロトン伝導計算を実行し、実験との比較において良好な結果を得た。また、分担者による第一原理計算を用いた網羅的素過程探索と第一原理計算の高速化を実行し、代表者の動的モンテカルロ法と融合した手法により固体酸化物のイオン伝導計算を実行し、実験との比較において良好な結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は代表者による動的モンテカルロ用の液体状態の記述法確立を第一に実行し、その結果、固定グリッドによる固体用動的モンテカルロの記述法をそのまま液体状態に適用することで固液複合系の記述は可能であるが、任意の液体を記述する上で最良の記述法にはならないとの結論を得た。これにより、液体の記述は従来の分子モデルを用い、その分子モデルに動的モンテカルロアルゴリズムを含有させ計算を高速化させる方針を採用した。同手法を構築し、金属リン酸複合系のプロトン伝導計算を実行し、実験との比較において良好な結果を得た。同成果については、現在論文を執筆中である。また、分担者による第一原理計算を用いた網羅的素過程探索と第一原理計算の高速化については、網羅的素過程探索をマルチカノニカル法で実行することを考慮し、同探索を第一原理計算で実行することによる膨大な計算時間を大幅に削減すべく、第一原理計算と同等の精度を示す力場の構築を実行した。この力場計算とマルチカノニカル法により固体酸化物をターゲットとし、イオン伝導に関わる素過程の網羅的探索を実行した。ここで得られた速度論データを代表者の動的モンテカルロ法と融合した手法により上記固体酸化物のイオン伝導計算を実行し、実験との比較において良好な結果を得た。同成果については、現在論文を投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
気液固複合相の非平衡状態を記述できる長時間ダイナミクス手法としての計算基盤技術はすでに達成するに至った。そのうち第一原理計算の高速化について、令和二年度は第一原理計算と同等の精度を示す力場の構築を実行することで対応したが、計算精度の面で若干改善すべき問題点も既に見つかっている。そこで、より高い信頼性を得るため、限られた第一原理計算データを学習用データとしニューラルネットワークによる学習を経た新規ポテンシャル(ニューラルネットワークポテンシャル)を導入することを検討している。すでに標準的な酸化物のイオンダイナミクス計算が同ニューラルネットワークポテンシャルを用いることで第一原理計算を約3万倍加速できることを確認している。このニューラルネットワークポテンシャル法を用いて素過程網羅的探索を実行することで高精度な高速計算を達成する。また、液体含有の系は、今年度導入したハイブリッド手法(動的モンテカルロ-分子動力学法)を基盤として整備し本研究目標を達成する。なお、全体の成果発表は令和三年度に行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年12月ごろから世界的に蔓延しだした新型コロナウイルスの影響により、今年度において使用予定であった旅費(九大―名大)、謝金(新規テクニカルスタッフ雇用によるデータ入力やデータ整理)、物品費(データ入力やデータ整理に必要な電子機器物品費)、の計画通りの使用が困難な状況に至った。研究期間中の研究として実行すべき項目は、代表者、分担者がそれぞれの研究拠点において当人自身が対応を行ったため研究の推進という観点からは計画通りであるが、上述のような状況が発生したため研究費の使用については元来の計画から若干の方向修正が必要となった。特に、研究成果発表、成果とりまとめを令和三年度に持ち越すこととした。また、令和二年度に開発した動的モンテカルロ-分子動力学法ハイブリッド手法の実行に効果的な研究機材の購入も令和三年度の前半に計画している。それゆえ研究期間延長申請を令和二年度3月に行い、令和三年度にて上述の内容を実行することとした。
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