研究課題/領域番号 |
19K22049
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中谷 真人 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (30725156)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 熱電変換 / ゼーベック効果 / 重合反応 / ナノ炭素 / フラーレン / エネルギーハーベスティング / フレキシブルエレクトロニクス / 有機エレクトロニクス |
研究実績の概要 |
材料中の温度差から電力を取り出す熱電素子は様々な電子素子の独立電源として期待されている.特に,体温をエネルギー源とする熱電素子を実現し,人体装着型センサーへ応用できれば,IoTを活用したリアルタイム医療へ応用できる.フラーレン(C60)薄膜は,既存の熱電材料に比べて数100倍の大きなゼーベック係数Sを示すため,次世代熱電材料の候補であるが,導電率σが極めて小さく電力を取り出せないことが弱点である.本年度は,C60薄膜の熱電特性を分子間結合の形成によって制御する研究を進めたところ以下の成果が得られた. 最初に,分子膜表面に2μm間隔で電極アレーを形成し,電極間に温度差を発生させることで,分子膜のS値をマイクロスケール(数μm)で評価する手法を開発し,下記の研究に活用した. C60薄膜への紫外可視光照射によって[2+2]環化付加反応(光重合反応)を誘起したところ,薄膜のS値をほぼ保持しながらσが数10倍まで増加し,出力因子が向上することを見出した.光重合反応を誘起すると分子間距離が約10%減少し,分子間キャリアホッピングが促進され導電性が向上する. さらに,光重合したC60の電子構造を理論的に調べたところ, 重合反応前後でエネルギーギャップがほぼ保持されることが分かった.即ち,C60薄膜の大きなエネルギーギャップを保持しつつ薄膜の導電性が向上することで,Sの保持や出力向上が実現したと考えられる.以上の結果は,σとSが共に優れた値を示す高性能熱電材料を創製するための指針となる. また,C60薄膜へ電子線照射し分子間融合反応を誘起したときの熱電特性についても研究を進めたところ,電子線照射によって,薄膜のσは10万倍まで大きく向上するものの,Sは数千分の1まで著しく減少することが分かった.現在は,炭素骨格の酸化反応によるS値の改善に取り組んでいる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では, ゼーベック係数Sと導電率σが共に大きな値を示す高性能熱電材料群を創製するために, フラーレン(C60)をモデル材料として取り上げ,構造の次元性や分子間結合構造を因子とした熱電特性の新しい制御法を開発することを目的とした. 本年度は,C60薄膜へ紫外可視光を照射しC60分子同士を共有結合(ダンベル型結合)によって連結すると,薄膜の S値をほぼ保持しながらσが数10倍まで増加することで出力因子の向上が実現することを見出した.通常の固体材料ではσとSの間にトレードオフ関係が成り立つことを考慮すると,以上の結果は大変興味深く,今後,σとSが共に優れた値を示す高性能熱電材料を創製するための指針となる. さらに,C60薄膜への電子線照射によって分子間融合反応を誘起する研究を進めたところ,電子線照射によって,C60薄膜のσが約10万倍まで大きく向上することも見出した. 以上のように、本年度は,C60薄膜における分子間結合と熱電特性の関連が明らかになるなど,次年度の研究に繋がる多くの成果が得られ,当初の研究計画に対しても良好な進捗が得られたものと判断する.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,紫外可視光照射によってC60分子同士をダンベル型結合によって連結するとC60薄膜のS値をほぼ保持しながらσが数10倍まで増加することで出力因子が向上することを見出した.一方で,実用的な電力出力を実現するためには,C60薄膜のσをさらに数千倍以上に向上させる必要がある.上記のC60薄膜への光誘起重合反応では,光照射中の温度上昇によって薄膜の3次元化が誘起されることが走査トンネル顕微鏡による分子スケール観察から明らかになった.すなわち,光照射したC60薄膜では,分子間結合によって分子間キャリア伝導は向上するものの,薄膜中におけるドメイン間の電気伝導は劣化している可能性が高い.今後は,光照射の条件を最適化することで薄膜の3次元化を抑制すると共に,物性計測の面からは,C60薄膜のシングルドメインへ電極接続することで,ドメイン境界の影響を排除した正確なσやSの評価も進める。C60薄膜のシングルドメインのサイズは約100 nmであるため,現在,C60薄膜上に100 nm以下の間隔で電極アレーを形成し,σやSをナノスケール計測するための計測機構を立ち上げている. また,C60薄膜へ電子線を照射し分子間融合反応を誘起すると,薄膜のσは10万倍まで大きく向上するものの,Sは数千分の1まで著しく減少する傾向を見出した.S値の減少の原因としては,C60の電子線融合反応によるエネルギーギャップの減少が考えられる.これを改善するために,次年度は,電子線照射後に酸素ガス雰囲気下で紫外可視光照射することで,重合体に酸化反応を誘起し電子構造を制御する研究に取り組む.
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