研究実績の概要 |
多価陽イオンが伝導する固体電解質は、高密度の電荷移動が可能であることから、高性能な電気化学デバイスへの応用が期待されている。そのため、多価陽イオンが二次元または三次元的に結晶中を伝導する固体電解質として、タングステン酸塩(A2(WO4)3;A = Sc, Yなど)やNASICON型複合リン酸塩(A1/3Zr2(PO4)3;A = La, Sc, Yなど)が報告されている。 結晶中に存在する多価陽イオンは、周囲に存在する陰イオンとの静電的な相互作用が強く、固体中を伝導することは一般に極めて困難である。今回、異方性の顕著な結晶構造中に存在する多価陽イオンは、ある特定の結晶学的な一次元方向であればその方向に比較的容易に伝導し得るのではないかと推察し、ICSDデータベースに登録された複合酸化物群から結合原子(Bond Valence)法を用いて、2価のCaイオンが<101>方向に一次元的に伝導可能な結晶構造型の候補としてグロサイト型化合物(CaAl4O7とCaGa4O7)を見出した。イオン伝導度を定量的に評価するためにランダム配向多結晶体を作製した。723から1073Kへの温度上昇に伴い、後者のバルク伝導度は1.26×10-7から4.40×10-5Scm-1に増加し、同じ温度で比較すると前者の約4倍となることがわかった。これらの伝導度は、Caイオンが3次元的に伝導するNASICON型化合物であるCaZr6(PO4)6の伝導度よりも優れていた。構成粒子が伝導方向に配向した多結晶体や単結晶を該当方位に切断することにより、さらなる伝導度の向上が期待される。
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