研究課題/領域番号 |
19K22057
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
林 博之 京都大学, 工学研究科, 助教 (50727419)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 第一原理計算 / 酸化物 / 不純物元素 |
研究実績の概要 |
材料開発においては、既知物質の機能を大きく凌駕する新規物質の発見だけでなく、工業的用途に応じて物質の選択肢を持つことが重要である。熱力学的に安定な物質だけでなく、準安定な物質にも有用な材料候補となる物質は多く存在するため、それらを効率的に予測することができれば、高機能物質を発見できる可能性は飛躍的に向上すると期待される。不純物添加や固溶体形成により準安定相を常温常圧下にクエンチすることは合成による物質探索の常法であるが、添加元素の種類や濃度や、考慮すべき結晶構造など膨大な探索空間を有するため、これまでは各論的に研究が行われてきた。本研究では、第一原理計算により擬二元系までの酸化物にはどのような未知の熱力学的安定相および準安定相が存在するか、またそれを安定化する添加元素は何かを予測することを目的とする。 33種の典型元素の単純酸化物および擬二元系酸化物を対象にし、結晶構造データベースにあるすべての結晶構造から、電気中性条件を考慮して仮想的な構造モデルを作成し、第一原理計算によりエネルギーを計算した。このように既知の結晶構造だけを考慮しても、計算対象はおよそ13万件あり、そのほとんどは未知の仮想的物質である。数千件ある既知の擬二元系酸化物の多くは既存のデータベースに登録があるが、未知酸化物までを網羅した計算データベースは存在しないため、本計算結果は高い独自性を有する。擬二元系酸化物の組成に対して形成エネルギーをプロットし、凸包線を描くことで安定相を評価した。その後、凸包線からカチオン当たり10 meVのエネルギー以内にある構造群に関してはフォノンバンド計算により力学的安定性も評価し、これらを合成の可能性がある準安定相としてスクリーニングした。既知酸化物の多くは以上の評価において安定相であったが、一部は準安定相であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた結晶構造データベースを網羅した13万件の仮想的な擬二元系酸化物の計算は、ごく一部を除いて計算が終了した。これに加えて、構造最適化後の結晶構造を記述する手法の開発も行い、元素の組み合わせと好ましい局所配位環境の組み合わせの評価もすでに開始している。
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今後の研究の推進方策 |
評価ターゲットとするのは、①既知相が計算上の安定相と異なる組成において、計算上の安定相をクエンチするための添加元素の選択と、②既知相がない組成で存在する計算上の安定相を得るための最適な添加元素の選択である。 安定化添加元素種は、安定相と準安定相において不純物を添加した場合と添加していない場合のエネルギー差から議論することができる。不純物の添加により系の電気中性条件が満たされなくなる場合、必要に応じて酸素空孔などの補償欠陥の導入も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に行った計算は、研究室所有の既存計算機クラスターで十分対応可能であったため、当初予定していた計算機の追加購入を行わなかった。 次年度以降に、計算結果を検証する実験を行う予定であり、その設備投資に用いる予定である。
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