研究課題/領域番号 |
19K22068
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
長谷部 光泉 東海大学, 医学部, 教授 (20306799)
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研究分担者 |
堀田 篤 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30407142)
松本 知博 東海大学, 医学部, 准教授 (30710983)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 生分解性ポリマー / X線視認性 / TACE / マイクロビーズ |
研究実績の概要 |
肝動脈化学塞栓療法 (TACE) は、切除不能な肝細胞癌に対して適用されるカテーテル治療である。本治療では、腫瘍の栄養血管に対し、薬剤徐放性の球状塞栓物質 (Drug-Eluting Bead: DEB) を注入し、血流を止めることで腫瘍を壊死させる。TACEはX線透視下で実施されるが、DEB自体にはX線視認性がないために、注入のコントロールが難しく、DEBが非標的血管へ逸脱するケースが少なくない。非標的血管が塞栓された場合、正常組織が虚血状態に陥り合併症を引き起こす。また、DEBは永久塞栓物質であるために、合併症の重篤化も懸念されている。 本研究では生分解性ポリマー (PLA、PLGA) および油性造影剤 (LPD) を用いて、生分解性/X線視認性を有する塞栓ビーズの開発をおこなってきた。2020年度ではPLA/PLGA/LPDビーズにおけるそれぞれの材料の仕込み比率を変更することで、それらがビーズのX線視認性及び生分解性に与える影響を調査した。LPDの比率を60%とした場合、CT値が最大の7200HUとなった。さらに、分解速度はPLGA比率の増加により速くなり、40日後の重量減少率は、PLA:PLGAの比率が1:1の時に最大で18.2%であった。また、 PLA:PLGA:LPD=2:2:6のビーズを用いてウサギの肝動脈を塞栓した。術後のCT検査により、塞栓箇所は明瞭に把握できたことから、PLA/PLGA/LPDビーズの高いX線視認性が示された。塞栓箇所の血管造影を実施したところ一週間以内での血流回復が認められた。以上より、より臨床に近いレベルでPLA/PLGA/LPDビーズの物性操作が可能であることが示され、in vivoにおける実用性も確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2020年度における本研究の目的は、in vitroにおけるX線視認性と生分解性の制御と物性評価であった。それに対し、PLA/PLGA/LPDビーズの材料比率が物性に与える影響を詳細に解明し、臨床で望まれる値にまで制御することができた。さらにそれらの効能について、ウサギを用いた動物実験により検証した。以上のことから、本年度における研究目標は達成され、さらに計画以上の進展を見せていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度では、作製したPLA/PLGA/LPDビーズの、薬剤のターゲッティング能の向上を目的とする。すでに疎水性薬剤のミリプラチンをビーズ内に充填することには成功したものの、より効能の高いとされる親水性抗がん剤であるエピルビシン (EPI) は、疎水性のビーズ材料と相溶性が悪いため十分量充填できないという問題があった。そこで2021年度は両親媒性分子であるヒアルロン酸セラミド (HACE) のミセル内にEPI内包させることで、安定してPLA/PLGA/LPDビーズに充填する手法を検討する。同時に、HACEは肝細胞癌に発言するCD44受容体に特異的に結合することが知られているため、ビーズのターゲッティング能も検証する。 EPIとHACE、及び溶媒を変更することでミセルの形状を制御し、PLA/PLGA/LPDビーズへの充填率向上を目指す。充填率は、作製時の上積み溶液のEPI濃度をUV-visにより測定することで算出する。また、HACEミセルを用いたことによるEPI徐放率の変化についても同様に調査していく。さらに、作製したEEPI/HACE/PLA/PLGA/LPDビーズを肝がん細胞(HepG2)に散布することで、抗がん活性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:新型コロナウイルスの影響により、当初予定していたよりも頻度を減らして動物実験を実施したため。 使用計画:主としてin vitroにおける抗腫瘍効果を実施するため、単価の高い薬剤や細胞実験用消耗品に充てる。
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