微生物細胞内に合成蓄積するポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は、再生可能資源から合成され、最終的に生分解可能な環境循環材料である。ポリマーの光学純度は、材料特性上極めて重要である。PHAを構成する160種以上の天然モノマーユニットは、全て「R体」であり、光学純度が極めて高いキラルポリマーである。典型的なPHAポリマーであるP(3HB)は、3-hydroxybutyrate(3HB)から成るホモポリマーで、(R)-3HB-CoA(補酵素A)モノマーを前駆体として、重合酵素の触媒作用により重合され、100%eeのR体から構成される。最終年度は、CoA転移酵素(PCT)の緩慢な立体化学選択性に基づき、ラセミ体の3HB・Naを細胞外から添加し、3HB→3HB-CoAの反応を触媒するPCT搭載大腸菌をベースに「S体」の3HB-CoAが合成可能な培養条件の最適化に注力した。アセチル-CoAをCoAドナー、添加3HBをアクセプターとした生合成を、P(3HB)のホモポリマー合成の可否(細胞内蓄積による蛍光観察)によって判断した。その結果、微弱ながら(S)体の3HB-CoAに対しても反応性を示すことが判明した。そこで、重合酵素のバリエーションを他種に拡充することで、(S)-3HB-CoAに対する重合反応を示す酵素スクリーニングを行った。当初計画した水素細菌由来重合酵素の進化変異体に加え、他種PHAファミリーメンバー中2位に水酸基を有する乳酸にも反応性を獲得した乳酸重合酵素も試したところ、蛍光顕微鏡下にて微弱ながら重合体顆粒をNile Red染色大腸菌細胞内に観察した。その蛍光強度から、高分子量ポリマーが形成する顆粒というよりも低分子量のオリゴマーサイズからなる重合体が観察されていることが示唆された。
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