研究課題/領域番号 |
19K22070
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
幸塚 広光 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (80178219)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | ゾル-ゲル法 / コーティング / 残留応力 / 緩和 / 湿度 / シリカ薄膜 / セリア薄膜 / チタニア薄膜 |
研究実績の概要 |
基材表面に作製された薄膜中の残留応力は、デバイスとしての薄膜の特性の制御、デバイスの形状・寸法の精密な制御という実用的な観点から重視されるべきである。筆者らはこれまで、基板のソリから酸化物薄膜の面内応力を求め、ゾル-ゲル法によって作製される酸化物薄膜を室温で静置しておくと、残留引張応力が時間とともに減少することに気付いた。本研究は、この応力の減少の原因を明らかにしようとするものである。 ゾル-ゲル法によりSi(100)ウェハ上に種々の酸化物前駆体ゲル膜を作製し、600~1000℃。得られた酸化物焼成薄膜を室温乾燥雰囲気中、湿潤雰囲気中、水中に静置し、面内残留応力の時間変化を調べた。1000℃で焼成したアナタース膜、600℃で焼成したシリカ膜、800℃で焼成したセリア膜のいずれもが面内引張残留応力を有し、これらの応力は、室温で時間とともに減少し、その後一定となった。ただし応力の減少速度と減少率は、水中>湿潤雰囲気中>乾燥雰囲気中の順に大きかった。一方、1000℃で焼成したシリカ膜は圧縮残留応力を有し、これは室温で時間とともに変化せず一定であった。また、800℃で焼成したセリア膜の減少した引張残留応力は、300℃で加熱すると回復し、その後室温で時間とともに減少し、再び300℃で加熱すると回復した。シリカ膜、セリア膜で観察されたこれらのことから、引張残留応力の減少は、構造緩和にもとづく応力緩和ではないといえる。さらに、湿潤雰囲気中ではなく、アセトン蒸気中やヘプタン蒸気中でも応力が時間とともに減少することがわかった。このことから、気体分子の吸着によって膜が膨張して圧縮ひずみをもたらし、引張応力の減少を招いたものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1000℃で焼成したアナタース膜、600℃で焼成したシリカ膜、800℃で焼成したセリア膜のいずれもが面内引張残留応力を有し、これらの応力は、室温で時間とともに減少し、その後一定となった。そして、応力の減少速度と減少率は、いずれの膜においても、水中>湿潤雰囲気中>乾燥雰囲気中の順に大きかった。以上の結果は、室温での残留引張応力の減少が、幅広い種類の酸化物薄膜に見られる現象であることを示しており、学術的に意義がある。 一方、1000℃で焼成したシリカ膜がもつ圧縮応力が、室温で時間とともに変化しなかったことは、引張応力において見られた現象が、構造緩和に基づくものではないことを示唆している。また、セリア膜で減少した引張残留応力が300℃で加熱すると回復したこともまた、構造緩和に基づくものではないことを示唆している。 さらに、アセトン蒸気中やヘプタン蒸気中でも応力が時間とともに減少したことは、これまでに観察された残留引張応力の室温での減少が、気体分子の吸着によって膜が膨張したことに起因するものであることを示唆した。 以上のように、残留引張応力の減少の原因が徐々に分かってきた。
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今後の研究の推進方策 |
残留引張応力の室温での減少が、気体分子の吸着によって膜が膨張したことに起因するのであれば、残留圧縮応力が時間とともに増加することがあっても良さそうである。シリカ薄膜の熱処理温度を変化させることによって残留圧縮応力を変化させることができるので、より詳細に圧縮応力の室温での時間変化を調べることによって、残留圧縮応力が時間とともに増加する現象が見られる可能性がある。 さらに、加熱による残留引張応力の回復や、アセトンやヘプタン蒸気中での静置による残留引張応力の減少は、セリア膜において見られたものの、他の酸化物薄膜では観測していない。他の酸化物薄膜においてもこれらの現象が同様に見られるかどうかを確かめることは、現象の普遍性を確認するために必要である。 さらに、1000℃で焼成したイットリア安定化ジルコニア(YSZ)膜の面内引張残留応力が室温では時間とともに変化せず、一定の値を保ったことについて、原因を解明する必要がある。
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