研究課題/領域番号 |
19K22073
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
藤田 麻哉 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究チーム長 (10323073)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 蓄熱材料 / 電子相 / PCM / 電子相関 / 相転移 |
研究実績の概要 |
エネルギーバリューチェーン施策において重要な位置付けにある「蓄熱」に新たな展開をもたらすために、固体保持して“溶けない”相変化型蓄熱材(Solid-State Phase Change Material:SPCM)の開発を行った。電子系の強相関に由来する電子相において、電荷・スピン・軌道に由来 して相転移を生じると、パラフィンや有機材に匹敵する吸放熱が実現できることに注目し、初年度は、電子相由来の熱変化が顕著な物質における相転移履歴制御や、熱変化を保持した上で固体としての機械的性質を制御する方策を検討した。履歴制御に関しては、吸放熱動作点の自由度を拡張する観点から、LiVO2の金属ー絶縁体転移の転移温度履歴の変化について調査した。本物質において、化学両論組成を保持した試料においては数10K(ケルビン)程度の履歴が出現するが、両論組成からのズレや添加元素の影響により大幅に変化させられることを物質探索より見出した。また、従来、不均化としてLiVO2 -> Li0.5VO2 (=LiV2O4) の不可逆反応として捉えられていた熱的反応について、熱測定を詳細に行い、従来の提唱とは異なる可逆熱反応を含んでいることを明らかにした。一方、電子相の相変化による熱量効果を保持して、固体としての機械特性を制御するために、蓄熱特性が確認されているVO2粉末の焼結について検討した。本物質の難焼結性について、電子状態計算において、界面および粒界エネルギーを電子状態計算から評価することを試みた。本年度実施した予備的計算からは、本系の難焼結性が熱量効果を生み出す電子状態と関係している可能性が示唆された。また、これまでに開発した本系の焼結性向上技術をもとに、圧縮強度などの機械特性を向上する粒成長条件を整理した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に計画していた物質探索については、Li酸化物系での非化学両論や、元素ドープ系などを作製し、熱測定などから物性変化を把握することに成功した。加えて研究協力者の協力を得てSmS系や、CaRuO系などについても、実際の試料を入手して物質性状を把握することができ、今後、アクティブ動作へ展開も含め試料情報を弁別することができた。また、Li酸化物系では、従来の組成-状態情報と異なるオリジナルな結果を得ており、今後において、従来見落とされてきた相状態(および新たな転移挙動)の解明の展開に結びつける目処が立った。 得られたLi酸化物系の組成あるいはドープ調整後においては、転移温度に加え、相転移履歴挙動も顕著に変化しており、転移履歴を与えるメカニズムや、支配因子について考察を行うことができた。これを展開することで、用途に応じた吸放熱温度制御など、応用面への礎になることも十分に期待される。また上述した新規相の正体および相としての出現状態については、従来知られてきた化学両論組成と相転移挙動が大きく異なることが予想され、また、応用上の選択肢としても広がることが期待できる。相の同定については今後、電子顕微鏡研究者等の協力を得ながら進める方策も目処がついている。 固体蓄熱材料として、蓄熱能力だけなく、固体としての機械強度等のメリットを併せ持つ新たな機能材料の創生を目指しているが、対象物質として二酸化バナジウムVO2に注目し、すでに保有する本系の焼結性改善技術をもとに機械強度特性向上などへの展開を目論んだ。その結果、ネッキング等の焼結促進過程を十分に進展させながら、粒成長の程度を調整できる方式および条件を見出し、この結果、VO2焼結体としては、粉末体と同等の熱特性を保持しながら、圧縮強度などにおいて、従来方式部材を2桁近く上回る特性(世界最高)を示す材料を得ることに成功している。
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今後の研究の推進方策 |
物質探索については、2年目の計画に含めた外場駆動による”アクティブ”動作につながる挙動の解明も含め、電場や応力場による変化も視野に入れた探索を行う。SmSやCaRuO 系で電流(電場)誘起相転移が報告されているが、1年目に実測した感触からは、絶縁確保等で種々の困難が予想されるので、まずは、典型材料として部材化に成功している二酸化バナジウムをベースにした動作を中心に進める。特に、焼結改善技術により機械強度を著しく向上させた試料については、機械試験機等により応力印加中の示差熱測定などを行うことが可能になるので、応力誘起動作を最初に着手する予定である。 また、VO2を中心として、電子状態計算のサポートにより、高い熱量効果の源となる電子状態起源の相転移および潜熱と、難焼結性につながる界面・粒界エネルギー利得への電子状態の影響を比較することで、電子状態を”壊さない”バルク形成の方策を追求し、本研究で採用している焼結性向上技術の優位性を確認するとともに、粒成長制御に向けた指針を得る予定である。 Li系については、ナノテクノロジープラットフォームなどの利用を見据えて、電子顕微鏡技術の支援を受け、熱測定からその端緒を得ている新規相状態の解明をさらに進展させる予定である。その出現状態が確認されれば、転移履歴状態が異なる相同士を比較し転移履歴等に及ぼす因子の違いを浮き彫りにできる。ただし、相状態の分布等が、電子顕微鏡の視野スケールとお大幅に異なる場合も考るので、このような場合には、顕微赤外ラマン観測などを新たに想定し、想定と異なる観測法についても情報を収集しておく。 以上より得られた結果をもとに、電子論的知見をベースとして「固体ならでは」の特徴を生かす材料科学と融合した手法に基づく画期的な新蓄熱部材開発に関する知見の総括に向け考察整理を順次進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際的なヘリウム(気体および液化冷媒)の不足が生じ、特に低温冷媒用の液体ヘリウムについては2019年度前半よりすでに供給がストップする状態が続いた。このため、代表者が保有する超電導磁石付きの温調クライオスタットの運行が予定期間を大幅に下回ることになり、この分に見込んでいた冷媒購入、装置メンテナンスができなくなるとともに、上記装置に接続して測定を想定していた計測機器類は、今年度中に購入しても使用できない目処となった。このため、温調下での計測については、別の測定に切り替えて暫定的に評価することで計画を進めることとなった。また、これらの状況に合わせ、実験で見込んでいた計画エフォートの一部をを電子論計算に回したため、実験補助用に見込んでいた人件費も当初予定より支出を半分程度におさえることなった。 2020年度にはヘリウム供給の回復が期待されるので、2019年度未使用分は上記事情で保留していた冷媒購入、装置メンテナンスおよび計測機購入などにそのまま執行する予定である。また、人件費に関しては、2020年度当初予定より雇用期間を増やして2019年度の保留実験遂行を進める。また、2020年度の当初予定額については、そのまま計画通りに、特にアクティブ動作蓄熱材の開発に向けた原材料費、試料作成のための部品等にあて、人件費についても上述の通り計画分を実施する予定である。
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