研究課題/領域番号 |
19K22082
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森 浩亮 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (90423087)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | ハイエントロピー合金ナノ粒子 / 触媒材料 / 水素スピルオーバー |
研究実績の概要 |
ハイエントロピー合金(High Entropy Alloy)は、1) 構成元素が5成分以上の多成分系、2) 等原子組成比(それぞれの組成が5~35at.%)、3) 単相固溶体を形成する、などの特徴から従来の合金とは異なる高い比強度、破壊靭性、高延性、高温強度、耐食性を示し、次世代高温構造材料として大変魅力的な金属材料である。しかしながら、国内外において、触媒材料として利用例はもちろんのこと、ハイエントロピー合金のナノ粒子化成功例に関する報告は皆無である。その理由としては、iii)低温において多成分異種金属の同時還元が困難である、ii)ナノ粒子化に伴う表面金属の酸化、ならびにiii)高温還元による金属ナノ粒子の肥大化、といったことが考えられる。 本申請課題では、触媒材料として全く未開拓な『ハイエントロピー合金』に着目し、触媒機能発現を目指したナノ粒子化法を確立する。具体的には、申請者がこれまで個々に発展させてきた『固体表面水素スピルオーバーを還元駆動力』とし、『規則的ナノ細孔空間を反応場』とするノウハウを統合し均一な合金ナノ粒子合成を試みる。さらに創製した合金ナノ粒子の触媒的性能を選択的水素化反応にて評価し、その利用可能性探索を世界に先駆け行う。高温強度、熱的安定性、耐食性において優れたハイエントロピー合金本来の特殊機能に加え、ナノ粒子化による量子サイズ効果、異種金属間で電子的配位子効果(リガンド効果)、ならびに幾何学的協奏効果(アンサンブル効果)により特異的な分子認識能を発現させ、活性・選択性の向上を狙う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、金属種としてCo、Ni、Cu、Ru、Pdを、触媒担体として二酸化チタン(TiO2)を選択した。ハイエントロピー合金ナノ粒子担持触媒の調製法として、これまで我々が開発してきたTiO2上での水素スピルオーバー現象を利用した強力な還元手法を応用した。水素昇温脱離測定、X線吸収微細構造等の結果より、TiO2上では5種類の金属前駆体が同時に還元されていることが示された。また、電子顕微鏡観察よりナノ粒子の平均粒子径は2ナノメートル程度であり、そのナノ粒子内で5種類の金属元素が均一に分散していることを確認した。加えてその生成機構、高活性発現の要因をin situでの時間分解XAFSを用いて明らかにできた。 さらにその触媒性能を、環境・エネルギー分野で切望されている二酸化炭素の資源化反応にて評価したところ、長時間反応においてもその粒子径はほとんど変化せず、単一の金属のみを担持した触媒に比べて極めて高い耐久性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間後半は、さらに開発したナノ粒子触媒の性能を不飽和カルボニル化合物の選択的C=O結合水素化反応にて評価する。本反応の鍵は、電子リッチなカルボニル基を触媒活性金属に選択的に吸着させることである。多成分金属が単相固溶体を形成したハイエントロピー合金ナノ粒子表面では電子的配位子効果、幾何学的協奏効果により特異的な分子認識能を発現する可能性を秘めている。さらに、得られた反応結果と各種分光学的手法を駆使して解明した触媒微細構造との関連を明確にし、更なる高性能触媒の設計指針にフィードバックする。このような知見はこれまで得られておらず、触媒分野のみならずナノテクノロジーを指向する先進的なマテリアルサイエンス分野へも多大な波及効果をもたらす。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度、予定していた学会参加、海外出張費が中止となり、次年度使用額が生じた。本使用額は、令和3年度に消耗品として使用する予定である。
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