研究課題/領域番号 |
19K22086
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
井藤 彰 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (60345915)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 温熱療法 / 免疫チェックポイント阻害 / メラノーマ |
研究実績の概要 |
免疫チェックポイント阻害薬によりT細胞はブレーキが外れることでガン細胞を攻撃することができる。しかし、夢のガン治療薬ともよばれる免疫チェックポイント阻害薬には、1)体内には免疫系に認識されるガン細胞の抗原 (腫瘍抗原)量が乏しいこと、2)細胞傷害性T細胞が破壊できるガン細胞の数は限られており腫瘍塊を治療することは難しい、といった問題点がある。我々は、磁性ナノ粒子が交流磁場で発熱する性質を利用して、熱でガンを破壊する温熱療法の開発を行ってきた。興味深いことに、磁性ナノ粒子を用いて温熱療法を施すと、HSP70タンパク質を介した抗腫瘍免疫が誘導されることを見いだした。本研究では、磁性ナノテクノロジーで免疫チェックポイント阻害薬の効果を強力に増幅する新規Heat Immunotherapyを創出する。 初年度である2019年度は動物実験の予備検討として、マウスB16メラノーマ細胞の三つの亜株であるB16F0細胞、B16F1細胞およびB16F10細胞の細胞表面解析を行った。従来のPD-L1阻害の効果に加えて、メラノーマ細胞自身のPD-1レセプターをブロックすると腫瘍増大を抑制するとの報告がある(Kleffel et al. 2015, Cell 162, 1242-1256)が、in vitroにおけるフローサイトメトリーで調べたB16細胞の細胞表面PD-1レセプター陽性細胞率は1%程度と低かった。また、磁性ナノ粒子が100 kHzの交流磁場でガン温熱療法に十分な発熱を示すことを確認した他、808 nmの近赤外線レーザー照射によっても表面プラズモン共鳴によって発熱することが新たに分かった。今後は、マウスを用いたin vivo実験を行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は九州大学から名古屋大学への異動があったので、研究環境の整備に時間を要し動物実験を開始することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、研究仮説に基づき、温熱で腫瘍を破壊して抗原を大量生産し、増幅された免疫チェックポイント阻害薬の免疫によって転移ガンにまで効果がある理想的なガン治療法を開発する。今後2年間の研究期間において、皮膚癌(メラノーマ)・大腸癌・膵癌の担癌マウスを治療実験に使用し、以下の項目を検討する。 1) 機能性磁性ナノ粒子の腫瘍への集積:がん細胞に静電的相互作用により結合する機能性磁性ナノ粒子であるマグネタイトカチオニックリポソーム(Magnetite Cationic Liposome)を作製し、in vivoにおける腫瘍への磁性ナノ粒子の取り込み量を調べる。 2)交流磁場照射による腫瘍の加温:1)の腫瘍内への磁性ナノ粒子の取り込み量に対して、交流磁場を照射することによる温度上昇を測定し、温熱療法に有効である43℃以上の発熱がみられるかをin vitroおよびin vivoで評価する。また、交流磁場照射時間(30分、60分)および温度(41℃、43℃、45℃)を変えて検討することにより、磁性ナノ粒子を用いた温熱療法単独のがん治療効果を検証する。 3)免疫チェックポイント阻害薬の投与量・投与タイミング・薬剤の組み合わせ:免疫チェックポイント阻害薬として、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体および抗CTLA-4抗体を使用する。モデルのがん細胞を使用してin vitroにおけるリガンド-レセプターの結合阻害実験を行うほか、in vivoでの担癌マウスにおける免疫チェックポイント阻害薬の投与量、投与タイミングおよび三種類の薬剤の組み合わせによる検討を行い、腫瘍サイズ等の治療効果を指標にして、それぞれの条件の最適化を行う。 これらの検討を基に、最終目標であるHeat Immunotherapyの開発を行う。
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