研究課題/領域番号 |
19K22090
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
杉目 恒志 早稲田大学, ナノ・ライフ創新研究機構, 次席研究員 (60716398)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 化学気相成長法 / スパッタ / 触媒 / 薄膜 |
研究実績の概要 |
カーボンナノチューブ(CNT)は、高い機械的強度や電気・熱伝導性など極めて優れた特性を有し、幅広い産業での応用が期待されている。一方で、用途に応じた合成制御ができていないことが実用化を妨げている。化学気相成長法(CVD)によって基板上に高密度に垂直配向成長させる「フォレスト」の形成は、長さと収量が両立可能な手法であるが、フォレストの成長停止が長尺化を妨げており、現在でも最長で約2 cmに留まっている。長尺化できない大きな理由として成長の停止が挙げられ、これに成長中の触媒の構造変化が大きく関わっていることが分かっている。本研究では、新規触媒の開発と反応系の設計を行い、成長停止を制御することで数十cmのフォレストの合成技術を開発することを目指した。 本年度はFe/Al2O3 の組み合わせを凌駕する新規長寿命触媒の開発を行った。長尺のCNTフォレストを成長させるために最適な組み合わせとされるAl酸化物下地の鉄(Fe)触媒を凌駕する触媒を探索するため、FeとAlの両方と合金を形成するガドリニウム(Gd)を微量添加した新規三元系触媒(Fe/Gd/Al2Ox)の開発を行った。SiO2付きのSi基板の上にAlをスパッタ法によって15nm担持した後、Gdをコンビナトリアル手法を用いて勾配を付けて担持した。その上にFeを膜厚を0.5nmと1.0nmの2種類のサンプルを作製した。CNTの成長は熱CVD法によって行った。H2とArを流しながら反応器を800℃まで加熱し3分間保つことでFeを還元することでナノ粒子を形成し、炭素源としてC2H2を用いてCNTを成長させた。 Gdが成長したCNTの長さに与える影響を調べた結果、Gdを加えた触媒の方が成長寿命が約3倍長くなることが分かった。今後さらにメカニズムの詳細を調べることで、より長尺なCNTの成長が可能な合成手法の開発を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の成長に有効とされていたアルミナ(Al2O3)下地上の鉄(Fe)触媒にガドリニウム(Gd)を添加することで寿命が約3倍に伸びることを確認し、従来の性能を上回る触媒を開発した。アルミナ(Al2O3)下地上の鉄(Fe)触媒を凌駕する触媒の組み合わせはおよそ15年間見つかっていなかったため、Gdの有効性を確認することができた。本研究では、オリジナルのコンビナトリアル手法を適用することで、Gdの膜厚がSWCNTの成長に与える影響を広範囲にスクリーニングし効率的に最適値を求めた結果、一原子層以下のGdである0.3nm程度が最適値であることが分かった。また重要な知見としてGdが厚すぎると逆にCNTの成長を妨げることも分かった。このGdのメカニズムについてIstituto Officina dei Materiali (イタリア)と共同研究を行い、大気中の酸素などによる影響を受けない特別なX線光電子分光法を用いることで、触媒の微細な化学結合状態の違いを検出しGdの役割を調べた。その結果、800℃で加熱し還元した際にGdがFeと結びつくことが観察され、これによってFeとCの相互作用が弱くなっていることが明らかになった。またCNTの直径変化を詳細に調べた結果、これまで問題とされていたCNTの成長中のFeナノ粒子の構造変化について、オストワルトライプニングや凝集など横方向についてはGdの添加により抑えられていることが分かった。一方で、Al酸化物下地の中にFeが拡散していってしまうという縦方向の構造変化についてはGdが存在していても防ぐことができないことが分かった。次年度はこの縦方向の構造変化を抑えることができる合成手法を開発していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
CVD法によるCNTフォレスト成長中のFeナノ粒子触媒の構造変化について、オストワルトライプニングや凝集など横方向の構造変化についてはGd添加触媒によってある程度抑制することができた。これは従来のAl酸化物下地上の鉄(Fe)触媒を用いた成長で観察された成長中のCNTの直径分布の増大が、Gd添加触媒においては観察されなかったことからも分かる。一方で、それだけではCNTの成長停止を完全に防ぐことはできないことが分かり、その大きな原因になっていると考えられるAl2O3下地中へのFeの拡散が断面TEM観察によって確認された。この下地中への拡散を抑制することが重要であるという知見を得ることができたため、今後は上記2種類の構造変化の抑制を考慮した合成手法を開発していく予定である。特にAl酸化物下地膜厚の最適化と、CVD法における条件の最適化などを行っていくことで、より長尺なCNTフォレストの成長が可能な手法の開発を行い、最終的には数十cmのフォレストの合成技術を開発することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
装置の立ち上げなど概ね計画通りに進んでおり、差額が生じているものの少額である。次年度の予算と合わせて目標を実現するために計画的に使用していく予定である。
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