薄型テレビ,パソコン,モバイル機器や太陽電池に欠かすことのできない透明導電性金属酸化物 (TCO) 電極には,スパッタ製膜法による ITO 薄膜が使用されている.ITOは,電子がキャリアとなる n-型半導体である.一方で近年,ホールがキャリアとなる p-型の TCO に注目が集まりつつある.その理由としては,p-型TCO のバンドギャップが n-型のものに比べて広く,有機薄膜太陽電池等への応用に適することや,透明 p-n 接合の実現に伴う完全透明電子デバイスの実現に繋がる事が挙げられる.しかしながら現状では,透明かつ p-型特性を示す材料は極めて限られている.特に,現在報告されているものは,いずれも有効質量がn-型 TCO に比べて高いことから,移動度が低く,低抵抗化が比較的困難であると理解できる.そこで本研究では,世界に先駆けて p-型 TCO ナノ粒子の厳密サイズ・形態制御液相合成法を開発し,低抵抗かつ高透明性を両立する p-型 TCO ナノインクを調製する.さらには,n-型 TCO ナノインクとの組み合わせ,p-n接合型完全透明デバイス,すなわち発電する窓ガラスを開発することを目的としている. 最終年度である本年度は,昨年までの研究に引き続き,1.GaCuO2 系ナノ粒子のサイズ・形態制御液相合成法開発とインク化および 2.ジルコン酸およびチタン酸塩系ナノ粒子を用いた p-型ナノインク開発 に精力的に取り組んだ.その結果,チタン酸系ナノ粒子の合成においても,様々な遷移金属元素のドープが可能であることが明らかとなった.一方,キャリア特性の評価については,問題点も明らかとなり,今後,さらなる抵抗値の低減が必要不可欠であることも示された.一方,n-型TCOについては,薄膜作成法および性能向上に取り組み,実用的な性能を示すナノ材料を開発することに成功した.
|