研究課題/領域番号 |
19K22102
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
武藤 俊介 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 教授 (20209985)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | オペランド測定 / 電子顕微鏡 / 自動車触媒 / 質量分析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,ガス化学反応,特に表面触媒反応をリアルタイム原子レベル観察でその場観察すると同時に反応に関与する供給ガス及び生成ガスを検出する新たなオペランド測定システムを構築し,セラミックス担持金属微粒子触媒反応研究における議論の中心の一つである反応活性点の特定とそのダイナミクスの解明を目指すものである. 本年度は、反応科学超高圧電子顕微鏡,RS-HVSTEMのガス環境セル排気ラインに電磁バルブを介して四重極質量分析計,QMS(JMS-Q1500)を設置し,外部環境(酸素,窒素,アルゴン,二酸化炭素など)から導入されるバックグラウンド強度を下げ,ガスセル内のすべてのガス種を効率よくQMSに引き入れるシステム開発を行った. 次にシステム動作テストとして,これまで実際に化学反応その場観察してきたカーボンナノチューブ(CNT)上に散布したPd微粒子による酸素雰囲気中炭素燃焼(酸化過程)及びRh酸化物の加熱による金属化(還元反応)を実施し,TEM観察による組織変化と同時に生成ガス放出(CO2またはO2)が検出されることを確認することができた. 更に,具体的応用事例として、実触媒における反応その場オペランド観察の実施した.試料として自動車排気ガス浄化でも困難とされている窒素酸化物還元のためのモデル触媒であるZrO2担持Rh微粒子を用い,温度上昇に伴う微粒子表面の原子分解能TEM観察と酸化還元反応生成ガスの検出が実際に可能なことを示した.各温度における反応生成ガスのQMSによって得られる放出曲線は,反応速度論方程式によってそのキネティクスを解析する事ができ,異なる反応温度でのデータから反応の活性化エネルギーを算出することが可能となった.本成果は,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム・微細構造解析プラットフォーム事業の一つとしても認定され,2019年度の秀でた利用成果・最優秀賞を受賞した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当初から,そもそもこのような微量ガス生成を検出できるか,という大きな問題設定であったが,様々な装置細部の改良によって,確かに電子顕微鏡に挿入した試料からの生成ガスを検知している確証が得られたことは大きな成果である.のみならず触媒反応の定常状態で起こっている金属微粒子の表面構造のダイナミカルな変化を原子レベルで捉えることができている.さらには質量分析計が刻々と記録するスペクトルの時間変化から,触媒反応がどのような機構で進行しているか、また各反応に伴う活性化エネルギーの定量算出が可能になったことは,まさしく触媒反応の研究に新たな扉を開きつつあるといって過言ではない. 当初電子エネルギー損失分光法を併用して,金属微粒子表面の分析を行うことを想定していたが,超高圧電子顕微鏡施設における走査モード時の空間分解能の不足によって,化学イメージングによる反応活性点の同定や,吸着ガスの可視化には至っていない.しかしながら,原子レベル構造像自体に表面ガス吸着の情報が記録されていることが示唆され,実際のガス分子と表面構造が触媒反応時にどのように具体的に変化しているかを現在鋭意解析を進めているところである.
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては,質量分析計にガスクロマトグラフィーを追加し,発生しているガス種の正確な同定および定量にまで発展させたい. また前項でも述べた通り,高温(500-600℃)での触媒反応定常状態において,金属微粒子表面のダイナミクスが明らかになりつつある.しかし質量分析スペクトルの解析から,実際の触媒反応は低温側と高温側で二つのモードが存在することが示唆されている.そのため低温側でも原子レベル観察の記録動画の解析を進め,この触媒の反応機構の全容を明らかにする予定である. さらに新たな触媒開発のために,添加元素効果を並行して調査中であり,窒素酸化物の還元特性が実際に異なる金およびパラジウム添加のRh微粒子試料についてもこれまでと同様の実験を繰り返し,その詳細なメカニズムを明らかにすることが計画されている.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度末において新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、共同実験、研究会・学会への出席中止等に伴い、適正な予算執行の計画がすべて停止してしまった。しかしながら、実験データの解析が順調に進み、極めて重要な成果が得られつつある。そこでさらに新年度には既存設備の増強として、定量測定のためにガスクロマトグラフィーを導入するために直接経費を年度をまたいで合算し使用する計画を策定しなおしている。
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