本研究では、人工的急峻電子状態を有する量子閉じ込めナノ構造を、良電子伝導を担うナノワイヤの側面に形成して、良伝導電子状態と高ゼーベック係数をもたらす急峻電子状態の混成状態を誘起し、本来不可能である高電気伝導率と高ゼーベック係数を同時実現し、本学理に基づく熱電性能向上方法論を創成することを目的としている。 初年度は、コアシェルナノワイヤの形成を目指して、まずZnO薄膜上のSnO2薄膜の成長様式を調べ、SnO2はアイランド成長することが分かった。その結果、コアシェルナノワイヤ形成のためには、実現可能な材料の選定を改めて行う必要性が認められ、ZnOとMgxZn1-xOが適切であると着想した。Mg添加量によりMgxZn1-xO/ZnO間のエネルギー障壁が制御でき、界面には2次元電子ガス層が形成されることが知られており、その界面チャネル層を当初提案していた量子閉じ込めGe層のかわりに使うこともできる。そのため、上記の当初計画が実施できると考えた。そこで2020年度に、まずは基準となるMgxZn1-xO/Zn超格子を形成し、その熱電特性を測定した。その結果、超格子の出力因子が薄膜に比べて二倍増大していることがわかり(@キャリア密度 n~3×10^19 cm-3の時)、本研究の狙い通りの予備的知見を得た。最終年度に、ターゲットとなったMgZnO/ZnOコアシェルナノワイヤー含有薄膜を形成した。その後、Mgの含有量、Alドーピング(フェルミレベル制御)を緻密に変えて熱電特性を調べた。その結果、コアシェルナノワイヤを導入すると約1.5倍ゼーベック係数が増大し(@ n~2x10^20 cm-3)、この増加効果は、本ナノワイヤーの面密度とMgの添加量に依存した。二次元量子効果による増大の証明には更なる評価が必要であるが、本増大効果の観測は、この実現の可能性を示すインパクトのある結果である。
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