研究課題/領域番号 |
19K22111
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
藤井 稔 神戸大学, 工学研究科, 教授 (00273798)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | シリコン量子ドット薄膜 |
研究実績の概要 |
研究実績の概要 シリコン量子ドットは,環境親和性・生体親和性の高い新ナノ材料であり,既存の半導体デバイス・プロセスと高い整合性を有している.本研究では,独自に開発したコア/シェル構造シリコン量子ドットの塗布薄膜の電気伝導特性を向上させ,それにより実用レベルの光・電子デバイスを実現するための基盤技術を確立することを目的とする.そのために,薄膜形成技術の開発,ドーピングによるキャリア制御,シリコン量子ドット間を金属イオンや金属ナノ粒子で架橋した複合薄膜の形成による電子移動度の向上等に関する研究を行う.本年度は、以下の研究を実施した。 i) シリコン量子ドットの水素生成等の光触媒(光電極)応用を念頭に、シリコン量子ドット塗布薄膜のHOMO-LUMO凖位をサイクリックボルタンメトリーにより調べた。その結果、量子サイズ効果によりアノード及びカソードピークがシフトする様子が明瞭に観察された。 ii) シリコン量子ドット薄膜の電流電圧特性及び光電流特性について詳細な評価を行った。その結果、酸素分子の吸着により電気伝導度及び光電流が可逆的に変化することを見出した。これは、酸素分子の吸着による量子ドット内への正孔の生成に起因するものであると考えられる。 iii)シリコン量子ドットと金ナノ粒子からなる複合ナノ粒子の開発を行った。量子ドット分散溶液に塩化金酸を加えるというシンプルな方法で複合ナノ粒子を形成する事ができた。また、複合ナノ粒子の薄膜を形成するプロセスを開発した。 iv) シリコン量子ドット薄膜は、作製条件によっては非常に高抵抗な状態になる。高抵抗なシリコン量子ドット薄膜は、抵抗変化型メモリーとして機能する。本年度は、この素子の動作原理の解明と、この素子がシナプス抵抗素子として機能することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サイクリックボルタンメトリーによるシリコン量子ドットのエネルギー準位構造の評価については、アノード及びカソードピークのサイズ依存性に関して重要なデータを得る事ができた。シリコン量子ドット薄膜の電気伝導特性及び光電流特性に関しては、分子吸着によるドーピングの効果を明瞭に観測することに成功し、研究目的の一つである化学ドーピングによるシリコン量子ドット薄膜の電気伝導特性制御の可能性を示すことができた。シリコン量子ドットと金属ナノ粒子の複合ナノ粒子の形成及びその薄膜の形成に関しては、構造の形成には成功したが、電気伝導特性の向上は得られなかった。この原因は、複合体形成による欠陥生成もしくは酸化によるものだと考えらえる。次年度に、この問題を解決するプロセスの開発を行う。以上に加えて、当初計画外の研究として、シリコン量子ドット薄膜による抵抗変化型素子の開発を行った。その結果、シリコン量子ドット薄膜がシナプス抵抗素子として機能することを示した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に行った研究を引き続き推進しさらに発展させる。今年度に課題として残ったシリコン量子ドットと金属ナノ粒子の複合ナノ粒子を呼びその薄膜の電気伝導特性の向上に関しては、形成した複合体の構造を透過型電子顕微鏡及び分光学的手法で詳細に調べ、電気伝導特性の劣化の要因を明らかにする。その上で、それらを解決するためのプロセスの開発を行う。さらに、金以外の金属粒子との複合体の開発を行う。また、電気伝導特性と発光特性を同時に測定できるシステムを構築し、2つの現象を比較することによりシリコン量子ドット薄膜の電気伝導特性を制限する要因をより明確にするとともにその向上のための指針を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額はごくわずかで、消耗品購入のタイミングの問題で発生したものであり、R2年度に使用する。
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