研究課題/領域番号 |
19K22113
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吾郷 浩樹 九州大学, グローバルイノベーションセンター, 教授 (10356355)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 六方晶窒化ホウ素 / CVD / グラフェン / 転写 |
研究実績の概要 |
近年、二次元物質が大きな注目を集めているが、構成する原子のほとんどが表面に露出していることから、基板表面やガス吸着などの影響を強く受け、理論通りの優れた物性を実際に得るのは困難である。これらの影響を排除して、二次元物質がもつポテンシャルを引き出す材料が六方晶窒化ホウ素(h-BN)である。グラフェンとSiO2基板の界面に多層h-BNを挿入することでグラフェントランジスタの移動度を3~5倍以上に向上できる。また、h-BNを基板にするとMoS2の発光特性を著しく向上でき、黒リンなどの不安定な二次元物質に対してh-BNはガスバリア膜として働く。しかし、これまでの研究では単結晶のh-BN粉末からの剥離片(大きさ10 ミクロン程度)が使われており、今後の二次元物質の科学と応用の発展に向けて、大面積の多層h-BNの合成法の実現が強く求められている。本研究では、均一な厚みと高い結晶性を有する多層h-BNのウェハーサイズ合成法を確立し、その優位性をグラフェントランジスタで実証することを目指している。 本年度は、ボラジン(B3N3H6)分子を原料として、各種金属を触媒として用いた化学蒸着法(CVD法)による多層h-BNの合成の検討を行った。種々の検討の結果、Fe-Ni合金触媒が比較的均一な多層h-BNを与えることを見出した。この多層h-BNをSiO2基板上に転写し、さらにその上にMoS2を転写することで、h-BNがMoS2の光物性に与える影響を調べた。その結果、h-BNによりMoS2の蛍光が非常に強くなり、かつSiO2由来のトリオン発光が抑制されて、エキシトンからの発光の割合が増えることも明らかになった。このように、CVD合成した多層h-BN膜が二次元絶縁膜として有効であることを示す結果を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は初年度であったことから、多層h-BNのCVD合成技術のブラッシュアップを中心に研究を進めた。ガスラインや反応炉を含めたCVD装置の改造、およびCVD装置の増設を行った。精力的な研究により、金属触媒の組成や厚さ、ならびにCVD条件がh-BNの収率や膜厚、均一性に与える影響について基礎的な知見を多く集めることができた。特に、CVD合成時の温度プロファイルが重要な役割を果たすことを見出すことができた。一連の検討を通じて、被覆率が高く、膜厚の比較的揃ったh-BNを得ることができるようになってきた。但し、単層h-BNと比べると、多層h-BNは再現性など色々な点で課題が多く、より一層の検討が必要であることも確認された。 一方、多層h-BNの二次元絶縁膜としての応用に関しては、遷移金属ダイカルコゲナイドの一つであるMoS2を用い、その光学特性に与える影響を明らかにすることができた。特に、多層h-BNの膜厚とMoS2の蛍光強度が強く関係していることを見出すことができたのは大きな収穫であった。また、剥離h-BNと同様にトリオンからの発光を抑制して、エキシトンピークが増強されることも確認された。同時に、h-BNの表面清浄化プロセスが重要であることも明らかとなった。 このように、h-BNのCVD合成、二次元絶縁膜としての応用の両面で期待された成果を得ることができた。 また、上記の研究成果に加え、大学の研究室、企業への多層h-BNのサンプル提供も行い、国内の研究の活性化にも貢献した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、金属触媒の組成の検討をさらに広げるとともに、これまでの触媒系でもCVD条件を突き詰めて、光学顕微鏡で判断できるh-BNの被覆率と層数均一性、ラマンスペクトルから判断できる結晶性の両面で優れた多層h-BNの実現を目指す。 同時に、転写したh-BNの表面クリーニング手法についても検討をさらに行い、グラフェントランジスタの作製に向けた実験を行う。その後、単層グラフェンを転写し、SiO2上のものよりも高い移動度が得られ、かつディラック点に変化が生ずることを実証して、論文化を進める。 多層h-BNは国内外で極めてニーズが大きいので、積極的に共同研究を行って、二次元物質の研究の発展にも貢献していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の研究で、複数の金属組成によるCVD研究を計画しているため、多くの金属スパッタターゲットの購入や高価な単結晶基板の購入が必要であり、これらに充てるため次年度に研究費の一部を留保した。
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備考 |
九州大学グローバルイノベーションセンター(吾郷研究室) http://www.gic.kyushu-u.ac.jp/ago/
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