研究課題
本研究では、金属腐食反応のダイナミクスをナノメートルスケールの空間分解能でリアルタイムにイメージングする新手法の創出に挑戦する。本年度は、イメージングのための金属腐食プローブの開発へ向けた物質設計指針を得ることを目指して、化学種に応答する光スイッチ型蛍光分子の合成と機能評価を行った。化学種と結合する部位としてジメチルアミノ基を有する蛍光性フォトクロミック分子を合成した。この分子の溶液に対して光を照射すると異性化反応が起こり、それに伴い蛍光強度が変化したことから、光による蛍光スイッチ機能が観測された。しかし、高極性溶媒中においては、この分子の光異性化反応性および蛍光スイッチ機能が著しく低下した。これは、高極性溶媒中においては、電子供与性のジメチルアミノ基と電子受容性の分子中央部位との間の電荷移動相互作用により光異性化反応性が抑制されるためと考えられる。この高極性溶液に対してトリフルオロ酢酸を添加すると、光異性化反応と蛍光スイッチ機能が活性化された。これは、トリフルオロ酢酸から発生する水素イオンがジメチルアミノ基に結合することで、電荷移動が起こらなくなったためと考えられる。すなわち、電荷移動と光異性化反応の競合と、その水素イオンの結合による変化を利用することで、水素イオンの結合により光スイッチ機能が活性化される新しい蛍光分子を合成できることが示唆された。このような蛍光分子は、金属腐食過程における水素イオン濃度を可視化するプローブとして機能する可能性を秘めている。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、金属腐食プローブの開発へ向けた物質合成と光応答特性の評価を行うことを予定していたが、これらの実験を実施することができた。それにより、水素イオンに応答する光スイッチ型蛍光分子を見出すことができ、この知見は金属腐食プローブの設計に活かすことができると考えている。よって、現在までの進捗状況としては「おおむね順調に進展している」と評価した。
化学種と結合する置換基の構造を変えることで、水素イオンだけでなく、金属イオンに応答する光スイッチ型蛍光分子も合成できると考えられる。そのような分子を設計・合成し、溶液中での滴定実験とスペクトル測定を行うことで、金属イオン応答特性と光応答特性を評価する。優れた応答特性を示す分子が得られた場合には、その分子をプローブとして用いた金属腐食過程の蛍光イメージングに挑戦する。
当初は「その他」費目の中に論文投稿料を見積もっていたが、本年度に発表した学術論文については論文投稿料を支払う必要がなかったため、未使用額が生じた。未使用額については、次年度における物質合成・精製のために必要な試薬やガラス器具などの購入費用として使用する予定である。
すべて 2019 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Angewandte Chemie International Edition
巻: 58 ページ: 13308-13312
10.1002/anie.201907574
Nature Communications
巻: 10 ページ: -
10.1038/s41467-019-11885-4
https://www2.rikkyo.ac.jp/web/m-morimoto/index.html