研究課題/領域番号 |
19K22119
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
早澤 紀彦 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (90392076)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 走査プローブ顕微鏡 / テラヘルツ / ナノテクノロジー / スピントロニクス |
研究実績の概要 |
研究課題「超高速テラヘルツ磁場誘起走査トンネル分光法の開拓」において、走査プローブ顕微鏡(SPM)技術とテラヘルツ(THz)技術を融合し、高空間分解能かつ高時間分解能を有する新規ナノ分光法の開発を進めた。令和元年度は、包括的に3つのシステムを総合的に開発することとした。即ち、1)SPMレーザーTHz発光分光(SPM-LTEM)、2)SPM THz時間領域分光(SPM-THz-TDS)、及びこれらを融合した3)SPM光励起THzプローブ分光(SPM-OPTP)である。1)~3)の装置を同一チャンバーシステムにより構築するよう設計を行った。本システムは、福井大学遠赤外領域開発研究センター(令和元年度より本課題に関する共同研究契約を締結)で開発した光伝導アンテナ(PCA)をTHz発光及び検出素子として用いたTHz-TDSと、qPlusセンサー方式(金探針を接着)の非接触AFMにより構成した。qPlusセンサーへの金探針接着の顕微鏡下でのプロトコルを構築し、qPlusセンサーを繰り返しリサイクルし使用可能とした。また、通常のTHz-TDSでは、光チョッパーを用いた照射光の変調によりロックイン検出を行うが、本システムでは、qPlus方式による金探針の試料垂直方向への励振により近接場THz信号に変調を与え、これをロックイン検出することとした。本年度は、上述qPlusセンサーの自作金探針を用い、これを数10nm垂直励振し、近接場でのTHz-TDS信号がロックイン検出により得られることを確認した。今後、SPM-THz-TDSの空間分解能評価を行い、1,2)の開発を進め、最終的に3)へと融合し、空間分解能及び時間分解能の評価を行う。 また、PCAに用いる低温成長GaAs基板のヘテロ界面を超高真空極低温環境下STM分光により行い、遠赤センターとの共同研究として、論文発表を複数件行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題に関して、令和元年度4月より福井大学遠赤外領域開発研究センターとテラヘルツ顕微分光開発に関する共同研究計画を締結し、センター長・谷正彦教授の研究室との共同研究を推進する体制が整った。これに基づき、先方へ訪問し技術指導を仰ぐこと、及びこちらに滞在頂き、実験指導を仰ぐことができ、効率的にテラヘルツ分光技術開発が進められた。一方の走査プローブ顕微鏡技術では、qPlusセンサーへの金探針接着技術の構築に少々時間を要したものの、 そのプロトコルを無事作成することができ、来年度、テラヘルツ分光と走査プローブ顕微鏡との融合を行う要素技術の準備は整った。 また、本研究全般に、高強度かつコンパクトなテラヘルツ光源の開発が重要となり、本開発に関する実験的および理論的共同研究を福井大学遠赤外領域開発研究センターと推進し、複数本の論文とすることができ、こちらに不足している理論的サポートも得られる体制も整った。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度では、2)SPM-THz-TDSの信号検出に成功したものの、信号を稼ぐため、金探針は先鋭化していないものを用いていた。令和2年度は、先鋭化した金探針をqPlusセンサーに接着して用る。金探針は非常にソフトであるため、非接触型AFMのフィードバックパラメータなどを最適化し、金探針にダメージを与えることなく、AFM走査が行えるようにする。その後、先鋭化した金探針により微弱となる近接場THz信号の検出効率最適化を行う。具体的には、光学系の調整を最適化し、励振振幅の最適化および高次高調波による復調を用いたロックイン検出の最適化、これらを総合的に行い、高効率での近接場THz検出を確立する。その後、金ナノパターンを施したヒ化インジウム(InAs)半導体試料を用い、そのエッジレスポンスにて空間分解能評価を行う。この2)の進展をもとに、1)の開発を進める。ここで、ロックインや励振振幅等の最適化項目は概ね1)にもそのまま活用されるが、励起波長が異なることから、励振振幅を波長にあわせた最適化を行う。1)の空間分解能評価も同じくInAsに金ナノパターンを施した試料で行う。1,2)の開発を最終的に3)へと融合し、空間分解能及び時間分解能の評価を行う。また、年に2度ほど、共同研究契約を締結している福井大学遠赤外領域開発研究センターを訪問し、実験および技術指導をして頂く。
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次年度使用額が生じた理由 |
開発した装置を内包する金属製ミニチャンバーの設計をより高安定仕様に設計し直すこととし、購入計画が次年度早期にずれこんだため。
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