研究課題/領域番号 |
19K22123
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
橋本 顕一郎 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (00634982)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
|
キーワード | 水素結合 / 量子常誘電 / 量子常磁性 / プロトン / 確率共鳴 / 誘電率 / 磁化率 |
研究実績の概要 |
本研究では、水素ダイナミクスと結合したπ電子系の電荷ダイナミクスをノイズ測定や誘電応答測定から検出することを目的として研究を行っている。当該年度は、その過程で、二次元三角格子構造を有する分子性モット絶縁体κ-H3(Cat-EDT-TTF)2に加えて、分子末端部を化学修飾した類縁体κ-H3(Cat-EDT-d4-TTF)2およびエチレンジセレノ(EDSe)基を有する類縁体κ-H3(Cat-EDSe-TTF)2において、有機分子上のπ電子が、有機分子間に存在する水素結合中のプロトン自由度と連動することで実現する新奇な量子スピン液体状態を見い出すことに成功した。具体的には、誘電率測定および磁化率測定を極低温まで行い、この物質において、量子常誘電性と量子常磁性が共存した新しい量子液体状態が実現していることを明らかにした。本研究により見出されたプロトン自由度による量子スピン液体状態は、電荷や軌道といった電子自由度とも、乱れによる構造自由度とも異なる、いわば第三の自由度に基づく量子スピン液体状態である言える。これは新しい量子液体の発現機構として興味深く、その背後には、物質中で最も軽量なイオンであるプロトンの顕著な量子性およびプロトン-π電子間に働く相互作用が重要な役割を果たしていることが実験・理論の両面からの相補的なアプローチによって明らかとなった。実際にごく最近、量子スピン液体を安定化させる機構として、プロトンの量子揺らぎの重要性を指摘した結果が異なる物質系においても報告されており、本研究成果は、プロトン揺らぎによる量子スピン液体状態の実現に対して、新たな設計指針を与える可能性を秘めていると言える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、水素結合型有機導体において、水素ダイナミクスとπ電子が互いに強く相関していることを実験的に実証し、さらには外部刺激としてノイズを印加することで、確率共鳴現象を利用した伝達信号の増幅を目指している。当該年度の研究により、水素結合型有機導体において、水素ダイナミクスとπ電子が強く結合していることが実験的に実証されたため、概ね順調に研究が進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに開発を行ってきた有機導体における精密ノイズ測定システムを用いて、κ-D3(Cat-EDT-TTF)2の輸送ノイズ測定を行い、相転移近傍のノイズ信号の増大を観測する。その上で、確率共鳴現象の観測を行うために、外部ノイズ印加に対する非線形伝導特性の観測システムの立ち上げを行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた非線形伝導特性の観測システムの立ち上げを次年度に持ち越したため、翌年度に消耗品費を繰り越す計画である。
|