生きた細胞の内部を観察する新たな原子間力顕微鏡(AFM)技術である「ナノ内視鏡」の開発に取り組んだ。集束イオンビーム(FIB)により市販のAFM探針の不要な部分を切削することで、長さ10-15 μm、直径150-200 nmの細長い探針を作製する条件を確立した。本年度は、このFIB探針を生細胞に挿入する際のダメージを最小にするために、先端形状、直径、挿入速度などを最適化し、その結果を論文発表した(Sci. Rep. 2021)。この他に、電子線堆積(EBD)法で作成した長さ1-5 μm、直径50-150 nmのカーボン探針についても同様の検討を実施し、狭い領域の観察においては、FIB探針よりも低侵襲かつ高分解能な計測が可能であることを見出している。また、これらのニードル探針を用いて、生きた細胞の全体像や細胞核、アクチン繊維など3次元観察を実現した。さらに、培養細胞の底面を内側から観察し、細胞膜の裏打ち構造に相当するアクチンメッシュを高分解能に観察し、その動的変化も可視化した。さらに、これらの計測が細胞に致死的なダメージを与えないことを、蛍光アッセイのより確認した。今年度は、これらのナノ内視鏡2D/3D観察の結果をまとめて論文発表した(Sci. Adv. 2021)。また、その後の実験により、これらの観察を行ったあとの細胞も問題なく細胞分裂を起こすことも確認している。一方、生細胞内部の細胞核の硬さががんの悪性化に伴って変化する様子もこの方法を用いて測定することに成功しており、現在、その成果を論文としてまとめつつある。以上の通り、本研究によって、ナノ内視鏡観察が原理的に可能であることを実証した。
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