研究課題/領域番号 |
19K22126
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
岩田 太 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (30262794)
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研究分担者 |
牛木 辰男 新潟大学, 医歯学系, 教授 (40184999)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 走査型イオン伝導顕微鏡 / ナノバイオ / 表面形状計測 / 表面帯電分布 |
研究実績の概要 |
液中環境での材料表面や生体細胞膜の表面といった固液界面の活性場において発現する現象は界面上の電荷状態に直接的に関わっていることから,電荷分布の観察は,そこで生じる様々な機能や現象の解明に極めて有効である.本研究の目的は液中環境において試料表面の形状像と電荷分布像をナノスケールの分解能で可視化できるプローブ顕微鏡を開発することである.走査型イオン伝導顕微鏡(Scanning Ion Conductance Microscopy: SICM)をベースに複数開口を有するナノピペットプローブを用いた新奇なイオン電流検出法を開発することで実現する.2019年度は,まず装置を構築し,基礎実験により,本手法の原理検証を行った.本システムを構築後,テストサンプルとして帯電処理したポリジメチルシロキサン表面を用いて実証実験を行った.具体的には,2つの流路・開口を有するナノピペット(先端に数十 nm 程度の微細な開口および流路を2つ有するキャピラリーガラス管)を用いて2つの開口間での電流を検出することで,帯電状態を相殺して表面形状が取得できることを確認した.さらにその状態からバイアス電圧印加用の接続をナノピペットの片側流路電極から従来の対照電極へと切り替え,印加するバイアス電圧の大きさや符号を切り替えて,検出したイオン電流を演算することで,表面帯電状態を計測できることを確認した.これらの基礎実験から本手法における妥当性が確認できたことにより,次年度の計画である帯電分布可視化の実現に向けた見通しを立てた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の計画は帯電分布を計測するために,走査型イオン伝導顕微鏡(SICM)をベースにした基礎実験を行うシステムを構築し,動作原理を確認することであった.このために,まずはイオン電流が試料表面の帯電の影響をうけないように計測する提案手法として,2開口(2流路)を有するナノピペットを用いてイオン電流における帯電の影響を相殺する手法について,上記の構築したシステムを用いて計測原理どおり動作することを実証した.これにより,帯電の影響を受けることなく正確な表面形状が測定可能であることを示した.続けて,帯電分布を可視化できる手法について,構築したシステムを用いてバイアスの符号を切り替えて印加し,帯電状態の影響を受けたイオン電流を検出し,帯電状態を測定できることを確認した.このように,本手法の原理的な実証実験は良好な結果を得ることができ,計画どおり,順調に進展できていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
構築したシステムの改良を進めて,帯電分布を可視化できる手法を開発する.帯電状態の測定は構築したシステムにおいてイメージングが可能なように走査機構とプログラミングを行い,表面形状および電荷分布可視化の顕微計測に関する実証実験を行う.その後,本手法を用いて実際の生体試料を測定する.まず,強い負帯電を有する染色体を用いて形状像および電荷分布像を取得し,染色体表面の電荷分布状態の違いを評価する.次に生細胞の表面電荷分布の測定に取り組む.さらに組織切片等を用いて構成部位ごとに異なる帯電分布を可視化することで,各部位を染色なく非標識で識別するラベルフリーイメージングでのナノ顕微法を実現し,本手法の有用性を示す.また,これらの定量的評価の妥当性を検討するためにワークステーションを用いたシミュレーションを行い,本手法の妥当性を確認する.
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次年度使用額が生じた理由 |
基礎実験として1年目に装置システムを構築する上で,装置の詳細な設計を決定するために,まずは,動作原理を検証するための比較的シンプルなシステムを構築したため,2019年度の使用額が予定よりも少なくなった.しかしながら構築したシステムを用いて動作原理の検証は計画通りに行うことが出来,設計の詳細も決定できた.これらの設計の詳細をもとに次年度に装置システムを完成させ,さらに調整・改良していく必要があり,そのための予算が必要になったために,次年度の使用額が生じた.
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