研究課題/領域番号 |
19K22128
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長久保 白 大阪大学, 工学研究科, 助教 (70751113)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 超音波 / 横波 / ピコ秒 / ポンプ・プローブ法 / フェムト秒パルスレーザ |
研究実績の概要 |
本研究ではフェムト秒パルスレーザを用いたピコ秒超音波法において様々な材料に対して横波を励起・検出することが出来る手法の解決を行っている。このピコ秒超音波法はサブTHzオーダーの超高周波超音波を励起検出できるため、ナノ薄膜や微小バルク材の音響特性・力学特性を計測することが出来る極めて重要な手法である。しかし、熱膨張を利用した現在の手法では一般的には縦波超音波しか励起することが出来ず、横波音速・せん断弾性率・横波超音波を用いたセンサ応用などが出来ないという欠点があった。そこで本研究ではナノワイヤ中を高速で拡散するホットエレクトロンと静磁場による相互作用でローレンツ力を発生させ、横波ピコ秒超音波法の確立を目指している。 初年度にあたる昨年度はまず最大5Tの高磁場下においてもレーザの照射位置と焦点距離を微調整することが出来る光学系の構築に努めた。ナノメートルオーダーで光の照射位置を調整するためには自由度が高く高精度で位置や角度を調整する機構が必要になる。しかし可動部を有する多くの光学部品は磁性体を含んでいるものが多いため、本研究では磁場の影響をなるべく避けるために従来とは調整機構が異なる光学系を非磁性体を用いて構築し、出来る限り磁場中心から離れた位置で調整をすることが可能となるような光学系を構築した。 また同時に実際の計測結果をリルタイムで確認しつつ光学系の調整を行うことが出来る革新的な計測法の開発も実現した。この計測法の開発段階では横波超音波の励起・検出が効率的に行えるように試料形状、寸法、膜厚を変更した試料に対してパルスレーザの照射位置や入射角度を微調整しつつ、計測条件を改良する必要がある。そこで本研究では非同期計測という手法に着目し、従来とは全く異なるアルゴリズムを採用することでほぼリアルタイムで計測波形を得られるシステムを本研究室で実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度作製した光学系と新たな非同期計測法は今後のこの研究を大きく飛躍させる重要な成果である。超伝導マグネットは最大5テスラにも上る強力な磁場を発生させることが出来る一方で、その重量と大きさと強力な磁場のため実際に光学系に組み込むためには専用のスペースやパーツなどが必要となる。特に、本研究ではナノワイヤに対してレーザの照射位置や入射角度を調整する必要があるため、非常に高精度な光学系を必要とする。この条件を満たすスペックの部品は既製品にはない。そこで非磁性材料でできた代替品を組み合わせながら、従来の光学系とは試料と光の相対位置関係の調整法を見直しつつ、試料台・光軸の新たな調整法を見出した。これにより磁場中心から離れた位置において最低限の自由度を持った調整を行うことが可能となった。今後も実際に計測条件を更に向上させるのにあわせて光学系にも改良を加えていく。 また高磁場下における光学系の改良を重ねると同時に、微調整を画期的に向上させることが出来る非同期計測法の開発という成果も達成した。通常の計測ではポンプ光とプローブ光の光路差を一定にした状態で各光学部品の位置や角度を微調整しつつ光学系を構築し、最終的に10~20分のスキャン計測を実施することで最終的な微調整を行う。しかし、この手法では簡単な光学系や計測応答が既知の計測の場合には有効である一方、試料からの応答も未知でポンプ光・プローブ光の照射位置・入射角度が多次元的に関係してくる今回の場合は、長時間を要するスキャン計測を通して光学系を調整することは非現実的である。そこで本研究では数秒の時間平均によって計測信号の応答を取得できる非同期計測に着目し、これを先に実現することに成功した。これら今後の研究に大きく貢献する重要な進展が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は更に光学系を改良しつつ、試料構造や材料についても検討を重ね、横波ピコ秒超音波法の確立を続けていく。現在の光学系ではポンプ光とプローブ光を独立に調整する機構について、対応しきれていない部分がある。磁場中心から光学部品を遠ざける必要があるため全体的に光路長が増加し、それに応じて焦点距離の異なるレンズを適切な位置に配置する必要がある。そうすることでポンプ光とプローブ光それぞれの入射位置と入射角度を独立に制御することが可能となり、微調整の実現とSN比の向上を行う。 また従来は幅500 nmのAuまたはPtナノワイヤのみを用いて実験を行ってきたが、試料についても工夫を加える。CuやAgといった更に電気抵抗が小さな材料を用いることでホットエレクトロンによる電流拡散の向上を測ったり、バイアス電圧を印可することで外場によりさらに変調を加えることも目指す。直流電圧を加えることでホットエレクトロンの拡散をアシストしたりする一方、ポンプ光レーザに加えている強度変調と同周期の変調を加えることで観測信号成分のみを向上させることが出来る可能性がある。また、ナノワイヤの幅や形状も電流の拡散に大きく影響していると考えられるため、長さや合計の幅や本数を変更したりすることでより効率的に横波超音波を励起することが出来る試料構造を調査する。最終的にはナノ~マイクロ薄膜やバルク材中の横波超音波音速・せん断弾性率の計測を目指す。
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