一般的なレーザー光波の断面位相は一様と見なせる。これに対して位相勾配による特異点を形成する光波は光渦と呼ばれ、特異点位置と勾配方向(カイラリティ)および巻き数に応じた高次の空間モード光波として特徴づけられる。巻き数の等しい光渦対は同一の強度分布を持つが、各光渦に異なるカイラリティを与えれば、渦対を同軸に重ねた場合でもカイラリティ選択による光波分離が可能となる。本研究ではこの光渦カイラリティに着目した新規分光手法の開発を目的として研究を進めた。 昨年度までに主要課題として掲げた光渦カイラリティ選択分離を活用した分光手法を確立し、1)半導体微小共振器モードのカイラリティ選択にもとづく高純度かつ安定な光渦発振、2)直交偏光配置の光渦対を用いた同軸入射型ポンププローブ分光の確立とカイラリティ選択によるキャリア応答測定を実現した。最終年度は光渦対を用いたポンププローブ分光の応用展開として、スパイラル位相板を使って生成される光渦の特異点自由度に着目した物性探索を実施した。光渦生成にスパイラル位相板を用いる場合、伝播軸に対する位相板の相対移動による特異点走査は、光学系や試料の安定性を損なうことなく物質の時空間特性の観測制御を可能にする。同軸入射型ポンププローブ分光に対して特異点走査を実施し、過渡応答の空間分布特性から電子系の秩序形成や拡散情報を取得可能であることを示した。光渦のトポロジカルチャージに依存した過渡応答変化も観測されており、空間モードカイラリティにもとづく新物性や新機能開発への展開につながる重要な成果であると考える。
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