研究課題/領域番号 |
19K22140
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石田 行章 東京大学, 物性研究所, 助教 (30442924)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 角度分解光電子分光 / レーザー高調波 / 偏向依存性 / 表面光電効果 / 第2高調波発生 |
研究実績の概要 |
光には「物質と反射や屈折もしながら光電子も放出できる」という波長領域が存在する。これは仕事関数以上かつ価電子プラズモンエネルギー以下の光子エネルギー域に相当し、ほぼ遠紫外域(6 < hn < 11 eV)がこれをカバーする。この波長域の光制御を確立することで、一電子励起と誘電応答が交雑する新しい光・電子現象をとらえるための精密レーザー光電子計測のプラットフォームを構築することが本研究の目的であった。 本年度は、まず遠紫外の最短波長域に位置する10.8 eVレーザー高調波の偏向制御を行うために以下の二つのアプローチをとった。(1)10.8 eVにおいて辛うじて透過性を持つ複屈折物質MgF2を用いて波長板を作製し、直線偏向制御を試みた。作製したMgF2を用いて直線偏向依存ARPESをAu(111)について行い、s偏向およびp偏向入射について光電子強度の消光比95%を確認した。実用レベルの消光比が得られたことから、当初の開発目標を達成した。(2)4波混合によって発生する10.8 eVの円偏向度を、入射赤外波のヘリシティーをλ/4波長板を用いて制御することを試みた。Bi2Se3の円2色性ARPESを行ったところ、入射面に一致する鏡映面内に放出される光電子について確かに円二色性が消失したことから、10.8 eV光の左右円偏向が実用レベルで制御できていることを確認した。 この他、5.9-eVファイバーレーザー高調波光源を整備した。ウォラストンプリズムを用いることで直線偏向の消光比1:10000を実現した。この光源を用いて入射角依存性を示す新しい表面光電効果を捉えるための光電子分光槽の設計を行った。また、Andi型ファイバーレーザーを用いて表面第2高調波発生の入射方位角依存性を自動測定する小型な装置を開発した。WSe2について、結晶の対称性を反映した3回対称の第二高調波の方位角依存性を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初目標としていた10.8 eVの偏向制御について、予定していたMgF2波長板を用いた偏向制御(1)のほかにパラメトリック過程に着目した偏向制御のテストを行い(2)、前者において直線偏向制御、後者において直線および円偏向の制御が実用レベルでできることが確認され、当初の開発目標を達成した。さらに固体表層媒質の非線形誘電応答を調べるツールとして第2高調波発生の方位角依存性を簡便に捉えるためのシステムの開発に着手し、良好な動作を確認した。さらに新規表面光電効果を捉えるための5.9-eV高調波光源の偏向制御の高度化を完了し、また低速電子をきちんと捉えるために必須となる鏡映対称性をもつ光電子分光槽の設計を開始した。以上より、遠紫外域における固体表層の光・電子現象を精緻に捉えるプラットフォームの構築は、当初の計画より進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)円偏向制御に成功した遠紫外10.8 eV光を用いて円二色性ARPES測定を展開する。光電子の円二色性分布から電子のスピン・軌道・ベリー位相の情報を引き出す試みが世界中で為されているが、その解釈は錯綜している。そこで、円二色性分布の起源を解明するという観点から、最も高い対称性をもつ試料について円二色性ARPESを行う。具体的には、試料および光電子分析器が全体としてC_∞vの対称性をもつ実験系を構築し、入射光のみがこの高い対称性を破るようにしたうえで円二色性ARPESを行い、分布のパターンを分析する。 (2)入射光の入射角に依存する新しい表面光電効果の存在を検証するための鏡映対称性をもつ光電子分光装置の製作を進める。この検証実験のために高度化した5.9 eV直線偏向光源を導入する。既存の理論では説明がつかない鏡映対称性の破れが光電子分布に現れる可能性を高精度で検証するためのプラットフォームを構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
共鳴4波混合を用いた10.8 eV光の円偏向制御およびこれを用いた円二色性ARPESの研究は、申請者が現在出向中の韓国ソウル大学に拠点をもつIBS-CCESとの共同研究である。2国間での共同開発を進めるにあたって、遠紫外光を制御するための光学素子やこれを駆動する装置等の導入のタイミングを図る必要があった。特に新たな光電子分光装置の製作開始が2020年1月末となり、これにあわせて物品の納入をするタイミングを図ったところ、納期等の関係から次年度の予算使用となった。
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