研究課題
光には「物質と反射や屈折もしながら光電子も放出できる」という波長領域が存在する。これは仕事関数以上かつ光電子プラズモンエネルギー以下の光子エネルギー域に相当し、ほぼ遠紫外域(6 < hn < 11 eV)がこれをカバーする。この波長域の光制御を確立することで、一電子励起と誘電応答が交雑する新しい光電子現象をとらえるための精密レーザー光電子計測のプラットフォームを構築することが本研究の目的であった。開発をしていた小型の表面第二高調波(SHG)測定装置の開発が完了した。この装置は入射面が回転する機構をそなえ、手のひらサイズの10MHzフェムト秒域ファイバーレーザーによって駆動される。小型ゆえに、光電子分光装置に実装する目途を立てることができた。また物質の再表層の仕事関数を高精度で測定する新原理の提案とその実証を行った。開発した6eV角度分解光電子分光法(ARPES)を用いて、金表面の仕事関数を1 meVを切る精度で測定した。高精度測定のポイントは、固体から放出される最も遅い光電子をきちんと捉えることにある。最も遅い光電子は表面垂直方向にのみ放出されるので、それをARPESを用いてきちんと捉えることが肝心である。さらに最も遅い光電子の軌跡をきちんと追うために、光のスポットサイズを試料表面で出来るだけ小さくし(直径0.3 mm以下)、また試料をきちんと分析器の焦点に据えることが高精度測定の肝である。前述の仕事関数測定の新手法を応用して、鉄系超伝導体の表面にアルカリ金属をドープして添加される電子の量が、仕事関数と相関することを見出した。また、高調波発生に有利な1MHzのフェムト秒域ファイバーレーザー光源の開発に着手した。手のひらサイズへの小型化、堅牢なモードロック(少なくとも2週間以上動作する)、そしてμジュールまでの増幅を確認した。
1: 当初の計画以上に進展している
開発をしていた表面第2高調波(SHG)測定装置の開発が完了し、この構成と仕様を論文成果として発表した。これによりSHG測定装置を角度分解光電子分光(ARPES)装置に実装する目途が立ち、固体表面における非線形光学現象と光電子放出現象を同一プラットフォームで観測する目途が立った。また物質の再表層の仕事関数を高精度で測定する新原理の提案とその実証を誌上発表した。この手法を応用して見出した鉄系超伝導体表面への電子ドーピングと仕事関数の相関について、誌上発表した。またレーザー高調波発生を見据えて新たに開発をはじめた小型の1MHzフェムト秒域ファイバーレーザー光源について、良好な動作が確認できている。以上より、当初の計画以上に進展していると判断した。
前年度より開発をしていた表面第2高調波(SHG)測定装置を角度分解光電子分光(ARPES)装置に実装することを進める。これにより、固体表面における非線形光学現象と光電子放出現象を観測するプラットフォーム構築を目指す。また、新たに開発をした1MHzの小型フェムト秒域パルスレーザー光源を用いて、遠紫外域の時間分解ARPES装置の開発を行う。これにより、固体表層原子スケールで起きる光と電子の協奏現象を精査するプラットフォームの構築を進める。
本研究計画の一部は、2019年にソウル国際大に新たに開設された東大物性研(ISSP)-韓国科学院電子相関研究センター(CCES)の共同ラボにて行われている。コロナ禍により往来が難しくなった中で、一部予算執行を遅らせる必要が生じたため、次年度使用額が発生した。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 備考 (1件)
Journal of Electron Spectroscopy and Related Phenomena
巻: 249 ページ: 147045
10.1016/j.elspec.2021.147045
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https://go.nature.com/30cyXYr