研究課題
本年度は、まずこれまで構築した入射面回転型のSHG検出装置(S.H.Kim, YI et al., RSI2021)の改良を進めた。クライオスタットに併設するために装置の小型化を図り、入射面回転機構を手のひらに載るサイズまで縮小した。次にクライオスタットの温度制御部を工夫することで、80K-400Kの広い範囲で温度を振っても試料位置が10μmも動かないようにした。これにより試料位置ずれを気にすることなくSHGパターンをとらえることが可能となり、SHGパターンの温度変化を自動測定できるようになった。改良したSHG検出装置を用いて、層状半金属MoTe2について測定を行った。MoTe2の固体内部は約250Kを境に一次の極性転移を経て低温側でワイル半金属になり、これに伴って表層にはフェルミアークと呼ばれる特異な電子構造をもつ伝導電子状態が形成されことが指摘されている。しかし表面は固体内部の転移に関わらす常に極性をもっている(反転対称性が破れる)ため、固体内部の極性転移と表面がどのように連動するのかがよくわからず、実際表層で転移が明確でない可能性が指摘されていた。1K刻みで150K-400Kの間で温度をサイクルさせながらSHGパターンをモニターしたところ、190K-300Kの間でパターンが不連続かつ段階的に変化した。計6度の温度サイクルでパターンの段階的かつ不連続な変化の様相は異なった。一方、温度を保った状態でMoTe2表面の400マイクロメートル四方の領域を測定したところ、全面においてSHGパターンは一定であった。以上の結果は、MoTe2の表層において極性転移が層の単位で段階的に進むことをあらわす。丁度、強磁性転移の際にみられるバルクハウゼン効果(ピニングされた微小磁区が突然磁化の向きをかえる)と同様のことが極性転移の際の固体表層付近で発生していることを示す。
1: 当初の計画以上に進展している
これまで10MHzのフェムト秒域ファイバーレーザーパルス光源を用いてSHG測定を行っていたが、これよりも小型でパルス光強度の強い1MHzのフェムト秒域ファイバーレーザーパルス光源の開発に成功した。この光源は手のひらの上にのるサイズで多少の振動や温度変化にも堅牢であるので、環境のととのったレーザー実験室の域を越えて使用することができることがわかった。これにより当初の計画にはなかった第二高調波顕微鏡への展開が見えてきた。
開発に成功した小型の1MHzのフェムト秒域ファイバーレーザーパルス光源を新たな高調波光源として利用する。具体的には第二高調波顕微鏡の光源および小回りの効く紫外高調波発生の光源として用いる。
本研究の一部は申請者が韓国科学院に出向しておこなってきた。コロナ禍により物性研と韓国科学院の間の往来が難しく、またコロナ禍により部品の納期が大幅に遅れることになり、次年度使用額に繰り越した。本年度は、開発に成功した1MHzのフェムト秒域パルスレーザー光源を用いて、第二高調波顕微鏡を作製する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件)
Journal of Electron Spectroscopy and Related Phenomena
巻: 249 ページ: 147045
10.1016/j.elspec.2021.147045