光には「固体表面で反射や屈折もしながら光電子も放出できる」という波長域が存在する。これは仕事関数以上かつ価電子プラズモンエネルギー以下の光子エネルギー域に相当し、ほぼ遠紫外(6<hn<11eV)がこれをカバーする。レーザー技術を駆使して、遠紫外域における固体再表層の光・電子現象の新学理構築に資する研究を駆使して展開するのが、本課題の主題であった。 まず6 eVレーザー高調波光源を高度化し、仕事関数を未踏の1 meVを切る精度で捉える新原理を実証した(Commun. Phys. 2020)。さらに時間分解光電子分光法を応用してフェムト秒域光パルスに対する仕事関数の応答を測定した。仕事関数と固体表層数Åに存在する表面分極を結びつけるモデルを導入することで、表面分極の非線形感受率を見積もる新しい方法を提案した(Submitted)。時間分解光電子分光を用いた表面分極の非線形感受率測定に先だって、表面域の非線形光学応答を観る強力なツールである第2高調波測定装置を自作し、遷移金属カルコゲナイドの表層におけるバルクハウゼン効果の観測に成功した(Rev. Sci. Instrum. 2021)。 また、光電子放出の立体角分布を一気に測定できるスリットレス分析器と11eV円偏向レーザー高調波を用いて円二色性分布の分類法を研究した。光と電子の相互作用の形を仮定することなく点群の既約表現を用いた分類ができることを示した(Submitted)。C2v、C4v、C∞vの既約表現で円二色性分布のパターンを分類できる場合があること、またそのパターンから波動関数の表面局在度を見積もることができることを、系統的に議論した。対掌性の研究からの派生で、野球ボールの縫い目に向きがあることによる対称性の低下および縫い目の向きを指で感知した時の心理的効果についての知見をまとめた(i-Perception 2023)。
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