研究課題/領域番号 |
19K22147
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
菊池 昭彦 上智大学, 理工学部, 教授 (90266073)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 有機単結晶 / 分子ドーピング / 光デバイス / 有機無機複合デバイス / 窒化物半導体 / ナノ構造 |
研究実績の概要 |
本研究は、分子ドープ有機単結晶を活性層とし無機半導体を電流注入層に用いることで、高電流密度動作が可能な新規有機無機複合型光デバイス技術の開発を目的としている。2019年度の研究成果を以下に示す。 ①有機単結晶成長技術の開発: 1.スピンコートと疎水性/親水性パターンニングマスクを用いたMAPbX(I, Br, Cl)3系ペロブスカイト単結晶アレイの位置制御析出技術を開発し、ハロゲン組成Xの制御により赤~青色の可視全域で発光する単結晶アレイの作製に成功した。 2.不揮発性溶媒薄膜と静電塗布を組合わせた有機単結晶成長法により、板状ワイドギャップ有機単結晶(PBD)における有機分子(DCM、F8BT)の面内ドーピング位置制御を実現した。 3.大気中の狭空間で有機結晶を昇華成長させるマイクロギャップ昇華法を用い、基板表面状態を制御することにより黄色発光有機分子BP3Tの薄板状単結晶をモザイク状に隙間なく基板上に析出させることに成功した。 ②分子ドープ単結晶の光学特性: 1.青色発光分子o-MSBをドープしたPBD単結晶において、o-MSBからの5nsの長パルス幅青色光励起誘導放出の観察に成功した。 2.DCMドープPBD単結晶における二種類のアシストドーパント(C6とC545T)によるエネルギー移動効率の違いに対する考察を行った。 ③有機無機複合型デバイス: ①-3で開発したマイクロギャップ昇華法を用いてBP3T/GaN有機無機複合LEDを試作し、明瞭な整流性と順方向バイアスでの黄色発光を観測した。また、180A/cm2以上の電流密度駆動と大気中2週間放置後でも特性が劣化がしないことを確認した。 ④ナノ構造光デバイスへの展開: 有機半導体を発光層とする有機無機複合デバイスに向け、独自の低損傷エッチング技術であるHEATE法によるGaNの高アスペクトナノ加工条件を把握した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度は、交付申請書に記した計画に対して、想定よりも順調に期待される成果が得られた。具体的な状況は以下の通りである。 薄膜不揮発性溶媒と静電塗布を組合わせる結晶成長法、ガラス板間の狭ギャップ中で有機結晶を析出させるギャップ法、大気中狭空間で有機分子を昇華再結晶化させるマイクロギャップ昇華法において、o-MSBドープPBD単結晶(青色発光)やDCM・C6コドープPBD単結晶(橙色発光)などの分子ドープ有機単結晶の成長を実証し、ナノ秒パルスでの誘導放出や高エネルギー移動効率を有する組合せを見出すことができた。特に、発光ドーパントとアシストドーパントをコドープした有機単結晶におけるエネルギー移動効率の向上現象は新規性と応用可能性が高く、有機単結晶による高輝度発光デバイスの実現に有用であると期待される。 有機単結晶のデバイス応用には、平坦で均一な薄膜有機単結晶を大面積で成長する技術の開発がキーポイントとなる。基板表面状態を制御したマイクロギャップ昇華法を利用することによりGaN基板上にBP3T薄膜単結晶をモザイク状にピンホールフリーで敷詰めて析出可能であることを見出し、この課題が想定よりも大幅に早く進捗した。さらに、この構造にLiF/AgおよびMoO3/Au電極を形成して電流注入発光も観測された。このデバイスは、180A/cm2の高電流密度駆動や大気中での長期間保管でもほとんど特性劣化が見られず、有機単結晶デバイスの有効性を示唆する重要な結果が得られた。 GaNナノ構造の作製技術も有機無機複合デバイスの高性能化における重要な課題であり、NH3添加HEATE法によるナノ加工条件の精査により、極低反射率や高光取出し、低抵抗電荷注入に適した自己形成ナノ構造や、高アスペクトナノトレンチによる分布ブラッグ反射鏡(DBR)構造等の作製条件を把握した。
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今後の研究の推進方策 |
研究目標を達成するための方策、課題および対応策等を以下に示す。 ①無機半導体から有機単結晶への高効率電流注入技術の開発: GaNから有機単結晶への高効率電流注入は、高電流密度駆動下での有機活性層の劣化を抑制して高効率発光を実現するための必須課題であり、初年度に開発したBP3T/GaN構造を用いて検討を行う。過去の実績を元に、自己配列双極子分子(SADM)とAlGaN/GaN階段状ヘテロ構造を中間層として導入し、電流電圧特性や発光効率の改善効果を評価し、構造を最適化する。 ②デバイス構造に適する分子ドープ有機単結晶薄膜成長条件の確立:初年度にBP3Tで成功したマイクロギャップ昇華法を用い、基板表面の親水性/疎水性制御や昇華析出条件を精査して、分子ドープ有機単結晶の大面積薄膜成長を試みる。最も難航が予想される課題なので、対策として別の結晶成長方法を用いた新規分子ドープ単結晶の探索を並行して実施し、小面積結晶でもデバイス化可能な構造も検討する。 ③p-GaN/有機単結晶発光層/n-GaN有機無機発光デバイスの作製:有機単結晶発光層を、①で開発する中間層を付加したn-GaNとp-GaNで直接クラッドする構造の有機無機デバイス構造を試作し、評価する。分子ドープ有機単結晶の大面積成長が難航する場合に備え、既に大面積薄膜単結晶の成長技術を開発したBP3Tや結晶化しやすいペロブスカイトなどのノンドープ有機活性層を用いる構造から着手し、デバイス作製プロセス技術を確立する。 ④GaNナノ構造と有機単結晶発光層による新規光デバイスの開発:高温水素雰囲気中におけるGaNの熱分解を利用するHEATE法で作製する自己形成ナノ構造による光取出し効率や電流注入効率の向上技術の開発、およびGaNナノ構造を光共振器として利用する新しい有機無機複合型光デバイスの構造設計と試作・評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を計画していた「YAG用3倍波発生ユニット」の価格が、海外製造元の買収合併の影響で2倍強になってしまったため購入を中止した。YAG3倍波レーザは、別用途で設置されていた装置を代用品として一時的に借用して研究の遂行には支障が生じないように対処した。一方、次年度に購入予定であった「デバイス駆動用プロービングシステム」は、別予算で購入した中古品を利用できることになったので新規購入は不要となった。このため、両者の予算を合わせて、高額になった「YAG用3倍波ユニット」の購入費用に充当することを検討している。
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