自然地震の分野では,近年発見されたスロー地震と呼ばれる従来の地震より遅い滑り現象は,従来の地震に比べて明らかに周波数が低く,かつP波S波も不明瞭な波形(低周波地震)として観測される.本研究では,貯留層内から発生する低周波地震を時間周波数解析により徹底的に解析し,その物理現象の解明を試みる研究である. オランダGroningenガスフィールドの約2か月間に渡り計測された連続波形データを対象として,解析を行った.デジタル化した信号をRMS信号に変換し,立ち上がりやエンベロープの継続時間に着目し,スロー地震と思われるイベントの検索を行った.KNMI(オランダ王立気象研究所)でも観測されているイベント,P波S波が明確でない微動のような信号を含め数十イベントが検出された.信号のスペクトルやP-S波到来時刻などから,スロースリップによるイベントであるか検討した.震源深度がおよそ3kmと浅いと考えられにも関わらず,継続時間が30秒を超えるなど,低周波成分を比較的多く含むイベントも検出された.震源深度が3km程度の場合,き裂のせん断すべりは数ms,イベント継続時間も数秒であることが一般的であることから,本解析で検出されたイベントは,通常のAEと比べてゆっくりとせん断すべりを起こすような発生メカニズムを有していると推定された.一方,対象フィールドの速度構造が比較的低速度の層から構成されていることもあり,比較的低周波成分が含まれ継続時間も長いことが,震源でのスロースリップに起因したものなのか,あるいは,伝搬経路のフィルタリング効果によるものなのか,現時点では明確に区別できていない.速度構造のQ値等を考慮したより詳細な検討が必要であることが分かった.
|