研究課題/領域番号 |
19K22150
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
駒井 武 東北大学, 環境科学研究科, 教授 (30357024)
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研究分担者 |
中村 謙吾 東北大学, 環境科学研究科, 助教 (30757589)
渡邉 則昭 東北大学, 環境科学研究科, 准教授 (60466539)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | ジオリアクター / 水素生成 / CO2削減 |
研究実績の概要 |
超臨界地熱水の高温高圧の反応場を利用したジオリアクター(地下反応器)を活用することで、水素や炭化水素の生成、さらにはCO2削減メカニズムを可能にする新規の反応プロセスについて理論的、実験的に検討した。そのため、高機能かつ高性能ジオリアクターを想定した反応器を作製して、エネルギー・環境分野での新たなブレークスルーを導出するための理論的な裏付けを行った。水素はクリーンでカーボンフリーなエネルギーであるため、地球温暖化の抑制に寄与する新エネルギーと期待されている。しかし、製造プロセスでの副産物やコストの点に問題が指摘されている。そこで、天然の地圏環境を利用して水素製造とCO2削減とを同時に達成可能な水素製造法を新たに考案した。本水素製造法では、地下の地熱環境にCO2とカンラン石((Mg,Fe)2SiO4)を輸送し、水素生成と炭酸塩鉱物の形成をともなうカンラン石の加水反応を利用して水素を効率的に製造する。これと同時にCO2を炭酸塩鉱物として地下に固定するものである。多種類の鉱物および触媒を使用して実験した結果、カンラン石、輝石および尖晶石などの天然鉱物をCO2リッチの環境条件下で反応させることにより、高濃度の水素を生成できることが分かった。 以上のように、本水素製造法は、目的に応じて発生した水素の一部あるいは全部を鉱物触媒反応によりCO2と反応させて炭化水素に転換して、新たな燃料資源を創成するという特長も有していることが判明した。本年度は、これまでの研究成果をまとめてジオリアクターを活用した水素製造のシステム設計を実施し、従来にない効率で水素を生成するとともに、炭酸塩鉱物を同時に固定化するためのプロセスを見出した。これにより、将来的なコスト削減に向けて、水素製造の新たな展開が可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、CO2リッチ地熱環境での水素生成反応に関する実験、および鉱物触媒を用いた炭化水素生成反応に関する実験を進め、それぞれの反応に関して反応条件や鉱物触媒の添加あるいは反応時間の影響などを検討した。実験においては、ハステロイC-22製の高圧反応容器を用いて高温高圧の地熱環境を再現した。実験中は気体と液体を所定の時間毎に採取し、IC,GC-TCD,GC-FIDを用いて分析し、生成鉱物や触媒はXRD、SEM-EDS,TGA,EPMAおよびXPSを用いて分析した。その結果、水素生成やカンラン石の加水反応は高濃度にCO2が存在する超臨界水の環境条件下で飛躍的に促進されることが分かった。 CO2リッチ地熱環境条件でのカンラン石の加水反応による水素生成の検討として、CO2濃度、温度、pH、水鉱物比、鉱物粒子径の組み合わせ条件下において反応時間を変化させ実験を行い、水素生成量が最大となる条件や反応経路ならびにCO2固定量を明らかにした。 多くの鉱物(e.g., Al、Crリッチスピネル)が自然系のカンラン石と共存しており、これらの共存鉱物の影響を解明することにより、原料の選定、水素生産量やCO2貯蔵量を増加させる方法を探索した。特に、輝石及びAlリッチスピネルが含まれる場合に、カンラン石の熱水反応後が促進されることを明らかにした。また、CO2回収技術と組み合わせた新たな水素製造法には,カンラン石の代表である苦鉄質岩,および地熱エネルギーが必要である。この条件を満たせる地球システムとして、海洋底における熱水噴出口、海洋火山島や地熱地帯が想定され、また人工環境としては休廃止鉱山などが想定される。以上の構想をもとに、利用可能な地球システムを設計し、その最適な工学条件を明確にした。
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今後の研究の推進方策 |
超臨界地熱環境において鉱物の化学反応により水素を生成するメカニズムの科学的な解明と生成促進の工学条件について、引き続き実験的、解析的な研究を進める。持続可能社会の実現と気候変動の抑制はSDGsに向けた早急な取り組みが必要とされる最重要課題であり、これらの問題解決のための新たな手法や可能性について挑戦的な研究を実施することは意義が深い。本研究の最終目標は、天然の超臨界地熱環境を大規模に利用し、CO2を系外に排出せずに反応促進剤あるいは炭化水素原料として利用するものである。従来の水素製造法やCO2地中貯留法とは全く異なるプロセスを提案し、水素製造とCO2削減を高度に融合した革新的な手法を確立する。 具体的には、昨年度に実施予定であった現場調査を実施し、収集した鉱物資材を活用して、以下の項目について実験的、解析的な検討を進め、研究目標を達成する。 まず、カンラン石、スピネル等の鉱物を組み合わせて反応の最適化をはかり、一連の化学反応のメカニズムおよびプロセスを明確にする。また、超臨界地熱環境を利用したCO2削減の最大のデメリットは、天然条件での水素生成速度が遅いということである。本研究では、新たに見出したCO2リッチ環境での反応促進メカニズムを解析して、これまでの制約条件を回避して水素生成速度とCO2削減速度を飛躍的に増加させるための化学工学プロセスを確立する。 以上の検討を通じて、本研究の最終目標である超臨界地熱水の高温高圧の反応場を利用したフィールドスケール・ジオリアクターの設計とその工学的適用を達成できる見込みである。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に予定していた現地調査出張が新型コロナ対策の影響で困難となり、水素製造に必要な合成用の鉱物資材(カンラン岩、輝石、スピネル等)の入手ができなかった。そのため、2021年度に地熱地帯における現地調査を実施し、実験に必要な鉱物資材を収集するとともに、これらを用いた水素製造の実験を実施する。次年度に現地調査旅費として10万円、実験機材として15万円、その他経費(機器調整、論文発表、機材輸送等)として25万円を使用予定である。
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