研究課題
この研究は、三次元アトムプローブ法(APT)を用いてナノサイズで元素の濃化や偏析の挙動を分析する手法の各ステップ(つまり試料作製、測定、再構築、元素が濃化している領域の探索と定量化)をを精緻化して、材料の結晶構造に対応する異方性を有したナノ構造の特徴を把握できるような分析手法の開発を目的としている。2021年度は、過年度までに取得されたデータを解析し、転位ループへの溶質原子の偏析を定量化する方法を検討した。円弧状に溶質原子が濃化した領域の長さと曲率を測長して転位ループの直径および数密度を推定した所、透過電子顕微鏡(TEM)の結果と概ね一致することを確認した。試料を転位ループに相当する場所とそれ以外の場所に区分した上で、析出物等の探索に利用されるMaximum Separation法(MSM)を用いて溶質原子がクラスタリングしている領域を同定してその組成を分析した。転位ループ状の溶質原子のクラスタは細長い形をしており、その他の場所では球に近い形状を持つものの、組成に有意な差は見られなかった。ただし、三元系鉄基モデル合金の転位ループに対して様々な方向から濃度プロファイルを描いて比較した所、転位ループの内側と外側で濃化する元素が異なる傾向があり、最も濃化する場も1ナノメートル程度異なっていることが分かった。これは、APTデータの分析で一般的に使用されるMSM法では捉えることのできない特徴である。結論として、金属系の照射材料を三次元アトムプローブで観察する際、(当初の狙い通りに)結晶方位の情報を考慮することで元素分析の空間分解能を著しく向上させることはできなかったが、転位ループへの照射誘起偏析の特徴を詳細に分析して定量化するための一連の実験手順を開発することには成功した。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Scripta Materialia
巻: 207 ページ: 114311
10.1016/j.scriptamat.2021.114311
Journal of Nuclear Materials
巻: 559 ページ: 153489
10.1016/j.jnucmat.2021.153489