研究課題
REBa2Cu3Oy(REBCO)超伝導薄膜線材の超伝導層同士を接合させる技術は、線材の長尺化のみならず、微小な欠陥傷を有する線材をバッチ補修することによる歩留まり向上にも貢献できるため、期待されている。先行研究では融着法にて液相を利用するため、接合界面に第2相や空隙が生成してしまう課題がある。本研究では、液相を介さない薄膜の結晶成長に基づく手法を提案する。本年度は、本手法にてGdBCOの接合体を作製して微構造解析を行い、本手法の有用性を検証することを目的とした。GdBCO線材上にGd, Ba, Cuの酸化物微結晶から成る前駆体を堆積し、それら2片を対向させて10 MPa程度の機械的圧力を印加しながら1093 Kで熱処理し、固相拡散を使用して結晶化と接合とを同時に行うことで接合を試みた。得られた試料の組織を透過型電子顕微鏡(TEM)にて構造解析した。主な成果として、先ず、本手法の再現性の高さが挙げられる。接合時の印加圧力を1.1 MPaから18.8 MPaまで系統的に振りながら接合したが、この範囲において全ての条件で接合体を再現良く作製できた。その他の主な成果として、微構造に関する知見の取得が挙げられる。結晶方位について、狙い通りにGdBCOのc軸および面内に結晶配向しながら接合できることが明らかになった。その一方、界面にはc軸方位のズレに起因する回折コントラストが観察され、制限視野回折図形からその方位ズレは6.5°であることが分かった。空隙については、数百nm程度の空隙がごくわずかに確認されたが、接合部のほぼ全域にわたって密着性良く接合することが分かった。以上より、本手法では結晶化熱処理時に接合界面にて2つの前駆体層間で固相拡散が十分に進行し、3軸配向を維持しながら空隙もほとんど生成されずに接合できることが分かり、本法の有用性が示された。
2: おおむね順調に進展している
概ね計画通りに進展している理由に、本申請を行うまでの予備実験の効果がある。具体的には、実験に使用する装置を事前に立ち上げて1年目の実験に取り組めたこと、大方の結果を予測した上で必要な評価を計画的に準備して臨めたことなどがその要因として挙げられる。
1年目の研究によって、提案した接合手法の有用性を検証することができた。このことを受けて、2年目は接合条件(結晶化時の印加圧力、熱処理温度、酸素分圧)が接合体の組織および通電性能に及ぼす影響を調査する。また、接合部に傷を人工的に加えた試料を準備し、接合を行い、組織や特性の挙動を明らかにする。
研究経費として、当初は当該年度に電気炉を新規購入する予定であったが、新規発注する前の仕様の設計段階において検討に時間を要しており、当該物品に関連する予算を当該年度に執行されなかったことがその理由である。これを受けて、次年度は早々に電気炉の仕様を確定し、その仕様を満たすべく新規購入を行うかもしくは既存の電気炉に改造を加えることを行い、実験計画を滞りなく遂行するための環境を整えるためにその差額を効果的に使用する計画である。また、得られた成果を広く社会に発信すべく、学会発表のみならず研究論文の執筆に取り組む計画であり、そのために研究予算を有効に使用する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
IEEE TRANSACTIONS ON APPLIED SUPERCONDUCTIVITY
巻: 29 ページ: 6602904-1-5
10.1109/TASC.2019.2902693
Japanese Journal of Applied Physics
巻: 58 ページ: 050913-1-5
10.7567/1347-4065/ab0f23/meta
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10.7567/1347-4065/ab0727/meta