研究課題/領域番号 |
19K22160
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
吉田 弘幸 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (00283664)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 準大気圧電子分光 / 逆光電子分光 / 電子源 / 伝導帯 / 電子親和力 |
研究実績の概要 |
本研究では、申請者が2012年に開発した低エネルギー逆光電子分光(LEIPS)に基づいて試料環境を準大気圧から高真空まで制御した状態で伝導帯を精密測定する装置を開発する。これによって準大気圧での世界初の伝導帯測定を目指す。開発上の課題は、準大気圧で電子線を試料に照射する機構である。電子は気体との衝突で散乱されるため、電子を高真空中で発生させ、差動排気を用いて準大気圧下にある試料に電子線を導く必要がある。もう一点は、電子発生源(カソード)である。従来の逆光電子分光やLEIPSで採用されてきた酸化バリウム(BaO)は大気や水の影響を受けやすいため超高真空でないと動作しない。初年度は、低真空で動作する電子発生源に焦点を絞り開発を進めた。 当初は、酸化イットリウムを利用した低真空で動作する電子源(2013年JST A-STEPで開発、特許6324501)を検討した。しかし、動作圧力が10-5 Pa程度に限定され、低真空ではエミッション特性や分解能などの性能が安定しないことが分かってきた。そこで、より低真空でも確実に動作するタングステンのカソードを用いることにした。 タングステンカソードは動作温度が約2600 Kと高いため、(1)電子線のエネルギー幅が0.6 eVとBaOの3倍に広がり装置の分解能を低下させる、(2)カソードで発生した紫外・可視光がLEIPSの光検出を妨害する。これらを防ぐため、エネルギー分析器を導入することにした(吉田弘幸、大津彰良、Molecular Science, 6 (2012) NP0019)。分析器なしではLEPSの信号強度の1000倍以上のバックグラウンド信号が検出されたが、エネルギー分析器の導入により検出限界以下に抑えられた。調整を進めた結果、最終的に100 nAの電流を取り出すことに成功した。分解能はBaOとほぼ同じ0.2 eVであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カソードとして、当初予定していた酸化イットリウムの代わりにタングステン用いるという大きな方針転換をした。このため、電子エネルギー分析器を取り付ける必要が生じた。この分析器は扱いが難しく、電流を取り出すのに苦労したが、最終的にはLEIPS測定に必要な最小限の電流は得られ、次の段階に進められる目途が立った。この分、やや進捗は遅れたが、一方で、酸化イットリウムで予測された遮光などの問題が電子エネルギー分析器の導入で回避されることから、全体としては、順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、電子源の開発を進める。まず、スリット幅を最適化するなど電流を増やせるようにする。現在のLEIPSでは100 nAでもスペクトル測定は可能である。しかし、準大気圧LEIPSの開発段階では10倍の電流が取り出せれば、装置の開発が格段に容易になる。これと並行して、差動排気の設計・制作を進めていく。2020年度、報告書を作成している段階ではコロナウィルスによる研究活動の制限が続いており、実験再開の見通しがたたない。電子線のシミュレーションなどコンピュータ上でできる開発をすすめながら、状況を見て柔軟に対応していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、初年度に真空槽や真空ポンプなど真空機器を整備してから研究を進める予定であった。しかし、電子源の開発を進める中で、大きな変更が起こりうることが明らかになってきた。そこで、初年度は既存の真空槽を活用して開発を行い、電子源の仕様が確定してから、真空槽を導入することにした。このため、次年度使用額が生じた。 次年度使用額は、予定通り、電子源の仕様が確定した段階で、真空機器の導入に使用する。
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