研究実績の概要 |
たった一つの生命現象を発現させるためにも、無数の分子が働いている。しかも、これらの分子は単独ではなく、ネットワークをつくり機能している。このよ うな複雑系の実体を理解する第一歩は、その現場である細胞内部や生体組織を分子レベルで画像化し、分子同士の相互作用の様子を分子ごとに知ることである。 しかし、世界的に見ても、誰もこのような画像化に成功していない。我々は凍結試料のための蛍光顕微鏡(クライオ蛍光顕微鏡)に注目し、15年間、研究を続 けてきた。実に20台のクライオ蛍光顕微鏡を独自開発した結果、世界で最も高いナノメートルの精度で個々の色素の三次元位置を1分子観察することに成功し た。ところが、この方法を厚みのある試料(厚さ>10 μm)に用いると、位置決定精度が著しく低下することが分かってきた。これは、試料と空気との界面屈折 に由来する収差が原因であることが分かってきた。そこで、当該研究では、界面屈折の影響をゼロにする「可変浸レンズ (Variable Immersion Lens, VIL)」を 開発した。これにより、世界初の細胞・組織内の分子レベルイメージングに挑戦する。2019年度にはVILの開発に成功し、特許の出願も済ませている。 VILは我々が開発した反射対物レンズ「虎藤鏡」と組み合わせて使うことで、界面屈折の影響をゼロにできるという特長を持つ。VILは虎藤鏡の焦点を曲率中心 としたメニスカスレンズであり、このような形状にすることで虎藤鏡からのすべての入射光線が垂直入射になる。これにより、界面屈折が起こらず、厚みのある 試料でも鮮明な画像が取得できる。当該年度は、乳腺細胞からなる細胞塊の三次元蛍光イメージをおこなうことで、可変浸レンズの有効性を実証し、原著論文を報告した。
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