本研究では、永久双極子の有無にかかわらず適用可能で、かつ分子系の回転(マイクロ波域)~分子間振動・フォノンモード(テラヘルツ域)のスペクトルを一挙に測定可能な分光手法の開発・展開を目的に研究を行った。開発部分として、まず広帯域かつ高分解能な分子分光を可能とする長光路光学系の立ち上げを行い、研究者独自のイメージング装置と組み合わせることで、既存の分光手法では分光実験が困難とされてきたメタン集合体、窒素集合体の200GHz帯までの高分解能計測に成功した。達成したスペクトル分解能は60MHzであり、小さな分子の構造解析には十分といえる。予備的な測定結果から、分子構造の決定と分子間相互作用ダイナミクスの特徴づけが可能となった。以上のように原理検証が済んだため、新規分光法として展開を行った。まず信号検出部に用いる電極設計の最適化による感度の向上を実現し、貴重な同位体サンプルでの実験を可能にした。メタン集合体や窒素集合体について、同位体効果を含めて、高精度の分光定数、ポテンシャル関数の決定を可能にした。画像観測装置の応用例として、2報の学術誌報告を行い、3報の投稿を準備している。 今後の展開として、新規分光法で扱える対象化学種をイオン種に拡張することができれば、イオンに対する汎用・広帯域・高分解能分光という未踏の手法が確立できると考えている。このような手法は、星間分子種の実験室観測や、反応中間体の同定法として希求されてきたもの、いまだ実現されていないものであり、今後挑戦を行う。
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