我々はこれまの研究により、C3対称性をもつ分子がハニカム格子に結晶化すれば、必然的にDirac coneやフラットバンドが形成されることを見出している。本研究ではこの物質設計指針に従い、C3対称性をもつ分子骨格としてトリプチセンを選び、ドナーやアクセプター性、あるいは金属イオンへの配位能をもつさまざまな置換基を導入しながら、分子性ハニカム格子の合成すを目指した。 本年度は、ハニカム格子の類縁格子であるカゴメ格子を有するMOFを合成した。カゴメ格子には、スピンフラストレーションが期待される。得られた系について、極低温域までの磁気測定と熱測定を行った。この結果、多次元的な相互作用をもつにもかかわらず、磁気的秩序状態に転移することなく、低温ではスピン液体状態にあることが結論された。これは、スピンフラストレーションが長距離の磁気的秩序を阻害したためと考えられる。極低温域における磁気測定と熱測定から、スピン液体状態の磁化率と比熱の温度依存性を実験的に決定することができた。さらに、これを説明するためのモデルについても検討した。 さらに本年度は、いくつかの新規トリプチセン誘導体の合成に成功している。ドナー性とアクセプター性を系について、それぞれその合成に成功した。現在、再結晶法や昇華法によって結晶作製を進めており、いくつかの系では、結晶構造解析や物性測定に取り掛かっている。また現在、電解結晶化によってラジカル塩の作製も行っている。
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