研究課題/領域番号 |
19K22171
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
波田 雅彦 首都大学東京, 理学研究科, 教授 (20228480)
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研究分担者 |
阿部 穣里 首都大学東京, 理学研究科, 助教 (60534485)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 磁気遮蔽定数 / シッフモーメント / 相対論的量子化学 / 原子核サイズ / CP対称性非保存 |
研究実績の概要 |
CP対称性破れは、現在の宇宙の物質優勢の起源を説明するために重要であり、2原子分子を用いた基本粒子の電気双極子モーメント(EDM)の観測は、CP対称性破れの証拠となるため注目されている。また、分子中の基本粒子のEDMを求めるには、高感度な実験に加えて、相対論的電子状態理論に基づく理論値の計算が必要である。本研究の本年度には、反磁性分子で観測可能な原子核EDMの主要な要因の一つである、核のシッフモーメント(NSM)に対する電子状態項を取り扱かった。NSMは、CP対称性を破る相互作用により、原子核内の電荷分布が球対称からずれることで生じる。従来の電子状態項では、核上の電子密度の微分値(X)という近似表現が用いられてきた。本研究では、Gauss型基底を用いた電子状態項の厳密表現を用いて、適切な近似表現を検討する。以下のパラグラフにその結果を述べる。 TlF分子などの重原子を含む反磁性分子についてDirac-Fock法を用いて電子状態項の計算を行った。厳密表現と多項式表現(①マクローリン展開、②核表面でのテイラー展開、③原子核領域での最小二乗法フィッテイング)を比較するため、HOMOの電子状態項を原子核領域で比較した。その結果、マクローリン展開,テイラー展開による多項式表現ではそれぞれ核表面付近、核中央領域で厳密表現との誤差が大きくなることが分かった。一方、最小二乗法による多項式表現では原子核領域(~10**-4 a.u.)において全体的に良く厳密表現を再現することができた。したがって、最小二乗法による多項式表現が厳密表現を記述するのに最も適しており、従来法に代わる有望な方法であると考えられる。この結果は核シッフモーメントを計算する上での重要な知見となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に掲げた項目についてはやや遅れているが、核のシッフモーメント(NSM)に対する電子状態項の計算やそれに対する適切な近似表現を検討するなど、新たな展開を加わっており、最終年度への研究慣性に向けて全体としては順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
核のシッフモーメント(NSM)に対する電子状態項の計算が進みつつあり、また、他方向への展開としてウラン化合物における核サイズ効果による同位体濃縮反応についての解析も進めた。今年度は、前者の成果を踏まえて、以下のように研究を進める。 数値計算の拠り所となる点は、非相対論極限と点電荷モデルに於いて前項で述べたシッフ定理が成立することであるので、先ずは、核シッフモーメントの遮蔽が完全(遮蔽定数が1)となる方法論と基底関数系を完成させる。この点は1年目の検討結果が重要になる。 Full相対論である4成分Dirac法、若しくは、それと等価な無次元Douglas-Kroll法をハミルトニアンとして採用し、非相対論と相対論の差を検討する。重原子と軽原子での違いが単純であるかどうか検討したい。CCSD(T)レベルの波動関数を採用する。核モデルは、素粒子論で予測されている形状を模したGauss型関数を使う。p軌道型のガウス関数を加えて歪んだ核の効果を検討する。実効核シッフモーメントのハミルトニアンから、共鳴周波数 や結合定数 を計算する式も導出して計算プログラム化する。また、核シッフモーメントは極めて小さい(プロトンEDMで10-29e.cm 以下)ので、実効桁数の桁落ちが考えられるクリティカルな部分で4倍精度計算を使い数値誤差に配慮する。Hellmann-Feynman定理やDasの式を使った近似計算の精度を検討する。同時に、基底関数依存性などを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度10月より予算執行が可能となり機器の購入などが遅れた。また、研究データの整理や解析などの作業を実施する臨時職員やアルバイト学生の雇用を実施しなかった。このため予算使用計画と実際の使用額に差が生じた。2020年度では研究進展に必要な機器の購入を実施するともに、2019年度で一定の研究成果があったので前述の雇用計画も実施する。
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