研究課題/領域番号 |
19K22173
|
研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
安藤 耕司 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (90281641)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
|
キーワード | 電子ダイナミクス / 強光子場 / 高次高調波発生 |
研究実績の概要 |
強いレーザーパルスによって誘起された水素化リチウム分子からの高次高調波発生スペクトルを、局在電子波束と原子価結合理論を組み合せた独自の新理論をもとに計算し解析した。 原子価結合局在電子波束法は、電子運動のポテンシャル曲面を構築できる。これは、従来の非局在分子軌道法では基本的に不可能である。この電子ポテンシャル面を用いて量子ダイナミクスシミュレーションを実行し解析することによって、高次高調波発生スペクトルの分子的なメカニズムに関して、新しい概念と描像を得た。 具体的には、次のような成果が得られた。水素化リチウムの二つの価電子の電子ポテンシャル面は、強い束縛と弱い束縛がある。弱く束縛された電子は主にリチウムの2s電子に帰属され、高次高調波スペクトルの第一ピークの起源となっており、分子全体のスペクトルに特徴的な平坦領域とカットオフには寄与しない。強く束縛された電子は水素の1s電子に帰属され、波動関数の概形は単純なガウス型を保つように見えるが、確率密度の0.1%がトンネル効果により滲み出し、10ナノメートル以上の空間領域まで拡散した後に、レーザー場の振動によって分子と再結合する。この成分が、50高調波に至る高次高調波発生の起源となっている。レーザー場の振動に誘起されたポテンシャル内での非線形ダイナミクスも、30高調波までの発生に寄与している。これらは、従来の3ステップモデルを補完し、より具体的で新しい微視的描像を提示している。 また、原子価結合局在電子波束法のさらなる応用に向けて、従来の計算化学手法による生体系分子シミュレーション研究を進めた。具体的には、嗅覚受容体タンパク質と香り分子との相互作用について解析した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」欄の前半に示した研究について、原著論文1報が国際学術雑誌で出版された。また、生体系分子シミュレーションへの応用に向けた研究も、学会発表に至る程度の進展があった。
|
今後の研究の推進方策 |
原子核ダイナミクスを取り入れた計算を実行する。対称性の異なる分子について計算を実行し、対称性の影響を解析する。ボルン・オッペンハイマー近似を越えた理論を定式化する。生体系分子シミュレーションへの応用へ向けた手法開発を継続する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究計画書を作成した時点では、既にテストが済んでいたOpenMPを利用するために、通常のCPU (Central Processing Unit) のコア数が多いワークステーションを購入する予定だったが、その後、GPU (Graphical Processing Unit) を搭載したワークステーションの利便性が高まっているという情報を得たため、同僚から借りたGPUワークステーションアカウントで試行と検討を繰り返し、本研究においてもGPUワークステーションの利用が有効であると判断した。その試行と検討と並行して、本年度には、業績欄に示した論文の執筆と投稿、査読段階で必要となった追加計算、紙上での定式化などを遂行していた。以上のような検討の上、GPUワークステーションを2019年度末に発注し、2020年4月初旬に納品された。
|