研究課題/領域番号 |
19K22173
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
安藤 耕司 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (90281641)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 凝縮系シミュレーション / 電子分極効果 |
研究実績の概要 |
凝縮系における電荷移動過程を記述するための反応自由エネルギー面の計算と動的反応経路の解析のための新手法を開発した。要所は、束縛密度汎関数理論(Constrained Density Functional Theory, CDFT)による第一原理分子動力学シミュレーションにおいて電荷移動前後の状態の間の透熱エネルギー差(エネルギーギャップ座標)を反応座標とする点にある。この手法を水溶液中のケイ酸分子の電離反応に応用した。従来のような溶媒配位数を反応座標とした場合に見られる問題、すなわち反応自由エネルギーが反応座標を定義するためのパラメータに依存してしまう問題を自然な形で回避できることが示された。 また、嗅覚受容体タンパク質mOR-EGによる香り分子オイゲノールの認識の分子機構を明らかにするために、脂質二重膜と溶媒水も含めた大規模分子動力学シミュレーションを実行し、動的相関の解析を行った。その結果、特定のアミノ酸残基に香り分子が水素結合することが引き金となり、まず最初に近接するαヘリックス上の複数のアミノ酸残基との動的相関が増大し、続いて細胞膜の下方(嗅覚受容体タンパク質から解離して隣の膜タンパク質へ結合することによって情報伝達を担うGタンパク質の存在する方向)へ動的相関が移動していく様相を見出し解析を行った。 密度汎関数法を用いた第一原理分子動力学シミュレーションは、溶媒と溶質の電子分極効果を均一に取り入れているが、計算コストが大きいために系のサイズを大きくするのが困難である。一方、溶媒水を含めた膜タンパク質のような大規模シミュレーションにおいて電子分極効果を適切に取り入れる方法は確立していない。本研究課題の局在電子波束を用いた手法は、プロトン移動のような化学反応と電子分極効果の両者を扱うことのできる可能性がある。その目的へ向けた理論の整備も進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は新型コロナウイルス感染拡大防止のために大学は急遽全面遠隔授業となり、諸対応のために研究時間を十分に取れなかった。そのため、自分自身で進める部分は後回しとなり、大学院生や外部との共同研究に研究時間の大部分を割り当てた。結果的に、本研究課題の目標の一つである凝縮系シミュレーションにおける電子分極効果に関連する知見を深め、局在電子波束法の開発に関する指針が得られたという点では進捗があったと言えるが、局在電子波束法の理論的および技術的な改良の部分は当初の計画よりも遅れてしまったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画のうち、電子ダイナミクスのポテンシャルエネルギー面と高次高調波発生スペクトルの計算については、昨2019年度の成果をもってひとまず休止し、今後は凝縮系への応用へ向けた手法開発、すなわち波束の局在性を利用した電子群分離近似の整備を行う。それを液体やタンパク質のシミュレーションに応用し、動的電子分極効果を探求する。その次に、原子核と電子の動的結合を解析する理論を構築し、金属クラスター中におけるプロトン移動や電子輸送における電子相関と格子振動の影響を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大防止のために、国内外への出張旅費がゼロとなったことが一つの理由であるが、その分を次年度と合わせることで、スペックを抑えたGPUワークステーションをもう1台購入できることが見込めたために、中途半端な端末用コンピュータを買い控えたことも理由である。研究の進捗状況を見ながら、2021年度中にGPUワークステーションを購入することを計画している。
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