研究実績の概要 |
最終年度は、以下の成果があった。 1. 局在波束を基底とする原子価結合理論に基づき、電子ダイナミクスのポテンシャルエネルギー面を計算する新手法を、水素およびヘリウム原子の高次高調波発生スペクトル計算に応用した。従来法とは異なり、任意性のあるパラメータを用いずに、適切な電子ダイナミクスのポテンシャルエネルギー面が得られることを確認した。波動関数の詳細な解析により、高次高調波発生のメカニズムについて新たな知見を得た。 2. 味覚受容体タンパク質とリガンド分子の相互作用について、分子動力学シミュレーションによる解析を実行した。リガンドポケット中の約20個の水分子からなるクラスターの構造と、リガンド親和性との相関を見いだし、その微視的詳細を解析した。 研究期間全体では、特に上記1を継続して実施した。これに加え、以下の研究成果があった。 3. 凝縮系における電荷移動過程を記述するための反応自由エネルギー面を、束縛密度汎関数理論(Constrained Density Functional Theory, CDFT)による 第一原理分子動力学シミュレーションから計算する新手法を開発した。この手法におけるサンプリングを効率化するために、配位数反応座標によるアンブレラサンプリングを併用することによって、計算コストの高いエネルギーギャップ反応座標の計算頻度を低減させる方法を開発し、その精度を検証した。 4. 嗅覚受容体タンパク質mOR-EGによる香り分子オイゲノールの認識の分子機構を解明するための、脂質二重膜と溶媒水を含めた大規模分子動力学シミュレーションの解析を実行した。とくに、タンパク質残基間の動的相関が伝達していく興味深い現象のメカニズムについて、統計的な解析を進めた。
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