本研究の目的は、医療応用を指向した無毒な水溶性量子ドットバイオマーカーを合成し、当該マーカーに発現するフォトサーマル効果の機能開発を行うことである。本研究期間では、1.シリコン量子ドット(SiQD)におけるフォトサーマル効果の検証、2. 水溶性SiQDと血漿タンパク質の相互作用、3. 水溶性SiQDの表面官能基化、の項目について研究を実施した。1) 近赤外発光特性を示すQDサイズ範囲(d=2~10nm)において、3種類の異なる平均粒子径を有するSiQDを作製しフォトサーマル特性を調べたところ、QDサイズが小さくなるに伴い発生する熱量は小さく計測温度は低下した。そのメカニズムをPLの温度依存性から明らかにした。QDにおける熱エネルギーの発生は、光励起電子の無輻射失活のチャンネルを介した再結合に帰すると議論した。2) 油溶性SiQDの集合体を両親媒性分子で覆いシェル化した70nm径のHydrophilic diameterを有する水溶性ナノ粒子を合成した。当該水溶性ナノ粒子に対してアルブミン、グロブリン、フィブリノゲン、トランスフェリンを作用させたところ、アルブミンとトランスフェリンはナノ粒子上へハードコロナを、グロブリンとフェブリノゲンはナノ粒子上へソフトコロナを形成した。また、タンパク質の構造変化についても研究を進め、グロブリンだけはタンパク質変性が起きることが明らかとなった。SiQDを集合体でなく個々のQDを表面修飾し水溶性にすることに成功した。水酸基で修飾したところ表面電荷がニュートラルに近く細胞へ取り込まれないことが明らかとなった。一方で、カルボニル基の表面修飾密度に起因するQD表面電荷の違いにより細胞への取り込みを制御できることが明らかとなった。以上の結果から、光QDおよび熱QDが正常細胞へ取り込まれることを極限まで妨げ、逆にがん細胞への取り込みを促進させる技術を開発することに成功した。
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