研究課題/領域番号 |
19K22180
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 宗太 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任准教授 (40401129)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 円偏光発光 / 大環状芳香族分子 / キラリティ / 超分子集積 / 光学物性 |
研究実績の概要 |
発光現象には、左回転と右回転の2種類の円偏光発光(Circularly Polarized Luminescence: CPL)が存在し、この特殊な偏光を3次元ディスプレイや光暗号通信などに応用することをめざして材料開発が盛んに研究されている。左/右円偏光の非対称性を示すg値と、発光効率を示す量子収率Φとが共に高いものが良いCPL材料である。これまでに、多様な分子構造を有するキラル発光分子が開発されてきており、そのキラル光学物性が探索されてきているが、大きなg値と高い量子収率Φとを両立できる分子がなく、この問題点を根本的に解決できる新しい分子設計の指針が求められている状況である。申請者は、「sp2炭素ネットワークが湾曲した同一曲面上に載った環状のキラルな芳香族分子」という分子構造が、大きなg値と高い量子収率Φとを両立する良好な円偏光発光物性の鍵であることを2017年に発見した。本研究は、この既往の設計指針を転換する新しいCPL分子の設計指針に従って、非対称かつ高効率なCPL分子を開発することで指針の有用性を確認し、さらに、超分子集積効果による光学特性の向上をめざしている。 本年度は、環状のキラルな芳香族分子のキラル光学物性の評価にとりくみ、CPLのみならず、円二色性(CD)、旋光度(ORD)を含めた包括的な光学物性と分子構造との明確な相関付けに取り組んだ。TDDFT計算による理論予測も併用することで、理解を深めることができた。特に、環状分子の直径を変えた新しい構造の分子の合成に成功し、主に分子直径を支配要因としてキラル光学物性を制御できることを見いだすに至った。本研究成果はAngew. Chem. Int. Ed.誌に原著論文として採択されるに至った。すなわち、キラル光学物性に適した分子設計指針の有用性を実験的に確認することができ、今後の研究展開にむけて確実な礎を構築することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新しく高効率なキラル光学活性を示す分子開発に成功し、その構造と物性との相関を明確に示すことができた。本研究は原著論文として発表するに至り、本研究課題は当初の計画に従って順調に進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
良好なキラル光学物性を示す有機分子の開発と並行して、それらの分子性結晶を構築することで、キラル光学物性のさらなるL増強をはかる。結晶化条件を精査することで、キラル分子を超分子集積し、キラル光学特性を増強する集積様式を見いだす。例えば、応募者が2017年に良好なCPL特性を見いだ した[4]cyclo-2,8-chrysenylene ([4]CC)分子は、芳香族性の筒状内面とアルキル鎖とがCH-π相互作用を通じて超分子集積し,右巻タイプ(P体)の[4]CCは左巻二重らせん(M型)を形成し,左巻タイプ(M体)の[4]CCは右巻二重らせん(P型)を形成する。この独特な二重らせん構造形成による CPL増強に興味が持たれるが,集積化による非対称要素の値の増強/抑制や、発光効率化/消光に対する知見は無く、全く予測できない。本研究では、構造と物性の相関を解明し,超分子集積効果によるCPL増強の設計指針を得る。 分子方位の異方性がある単結晶試料に対するキラル光学物性の測定は、複屈折や直線偏光といったアーティファクトが現れるために困難を極め、標準的試料に対して基礎的な分析手法を述べた2報の論文が報告されているのみである。そのため、分子方位に合わせた試料形状の加工が必要であり、KEKの構造生物学グループが保有する独自仕様の単結晶レーザー加工機を共同研究により利用することで、困難な試料調製を達成する。キラル光学特性を評価するためには、アーティファクトを分離できる特殊な分光計が必要であり、独自に開発された分光計を有する研究者との共同研究を通じて測定を行う。なお、微小で脆い結晶切片の取り扱いは困難であるため、試料の取り扱いに慣れた研究代表者も測定に臨む。
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