キラル発光分子の発光現象においては、左回転と右回転の2種類の円偏光発光(CPL)が存在し、左/右円偏光の非対称性を示すg値と、発光効率を示す量子収率Φとが共に高いものが良いCPL材料である。これまでに、多様な分子構造を有するキラル発光分子が開発されてきているが、大きなg値と高い量子収率Φとを両立できる分子がなく、この問題点を根本的に解決できる新しい分子設計の指針が求められている状況である。 研究代表者は、「sp2炭素ネットワークが湾曲した同一曲面上に載った環状のキラルな芳香族分子」という分子構造が、大きなg値と高い量子収率Φとを両立する良好な円偏光発光物性の鍵であることを2017年に発見した。本研究は、この既往の設計指針を転換する新しいCPL分子の設計指針に従って、非対称かつ高効率なCPL分子を開発することで指針の有用性を確認し、さらに、超分子集積効果による光学特性の向上をめざした。 本年度、キラル大環状芳香族分子が集積された結晶性固体に対し、固体状態でのキラル光学物性の測定に必要な、結晶方位を考慮した薄片状態へのレーザー加工を行った。分子方位に異方性がある単結晶試料に対するキラル光学物性の測定は、複屈折や直線偏光といっ たアーティファクトが現れるために困難を極めることが知られている。レーザー加工機で、結晶の方位を制御して薄片化することで、試料調製に由来するアーティファクトを抑制し、CPLのみならず、円二色性、旋光度を含めた包括的な光学物性の測定が可能となった。測定には特殊な分光計が必要であり、独自開発した分光計を有する研究者との共同研究を通じ測定を行った。その結果、残念ながら固体状態での超分子集積によるキラル光学物性の減少が観測された。キラルな分子のキラル固体集積、という、2つのキラリティの関係がジアステレオマーである系を用いれば増大を観測できるものと予測している。
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