本研究では、光照射条件下、触媒量のチタンアルコキシドを用いるredox-neutralなラジカル種の発生法を確立し、これを利用した効率的な有用炭素骨格構築法の開発を目的として研究を行った。前年度までの研究で、基質として各種のベンズヒドロール誘導体を用い、10 mol%のテトライソプロポキシチタン存在下、クロロベンゼン中20 mol%の酢酸、及び水素原子供与体として5倍モル量のイソプロピルアルコールを添加しLEDを用いて365 nmの光照射を行うことで、目的の還元二量化体を収率良く得ることに成功した。今年度は、本反応を可視光照射下で行うことを目指し、各種添加剤を中心に反応条件の検討を行った。その結果、チタン上に配位することで黄色を呈することが知られているジチオールを添加して反応を行っても目的の反応は進行しなかったが、チオグリコール酸を添加しLEDを用いて425nmの可視光照射を行ったところ目的の二量化体が好収率で得られることを見出した。さらに可視光照射条件下での基質一般性を検討した結果、多くの場合で紫外光を照射した場合より収率が向上することがわかった。また、基質を添加せずに反応を行い吸収スペクトルを測定したところ、660 nmに幅広の吸収が観測されたことから、三価のチタン種の生成を確認することができた。続いて本反応系中で生成するイソプロポキソラジカルをラジカル生成に利用することを考え、イソプロピルアルコールを添加する代わりに溶媒量のトルエンを加え反応を行った結果、トルエンのメチル基から水素引き抜きが進行し、生成したベンジルラジカルとジフェニルメチルラジカルがクロスカップリングした生成物が20%と低収率ではあるが得られることを見出した。現状その収率は満足すべきものではないが、アルコール類と炭化水素類のクロスカップリングが行える可能性を示す結果として意義深いものである。
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