研究課題/領域番号 |
19K22184
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
廣戸 聡 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (30547427)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | アルキン / バッキーボウル |
研究実績の概要 |
本研究ではホウ素元素を含む曲面分子の合成を目的にしている。2019年度は想定ルートである、(1)アルキンを経由する合成ルートと(2)PAHを原料とし、環状化合物を経由する合成ルートの二経路の探索を行った。まず始めに鍵前駆体の合成を行った。種々検討を行ったが、既に報告されている類縁体の合成と同様の手法では、クロスカップリング反応の収率が低く、さらなる反応条件の検討が困難であった。そこで、ハロゲン置換基をもつ湾曲アルキンを合成した後、ヘテロ元素を導入する戦略に変更した。この戦略では、同一の出発原料から様々なヘテロ元素埋め込み型バッキーボウルの合成に繋げられると期待できる。種々検討した結果、3段階で効率的に前駆体まで合成できるルートを開拓した。しかし、合成した前駆体が各種スペクトル測定の結果、構造の制約に伴う異性体を有することが判明した。この前駆体の性質は更なる反応における収率の低下を予期するものであった。そこで、これらの結果を踏まえてさらに合成ルートを理論計算により検討した結果、より簡便な合成ルートの構築に成功した。今後、このルートに従って合成を進めていく予定である。 一方、PAHを経由するルートでは、溶解性向上のためアルキル基を導入したPAHを新たに合成し、クロスカップリングを行うことで、鍵環状化合物の前駆体までの合成経路を確立した。現在さらに反応を行っており、鍵前駆体である環状化合物の合成を達成する目前である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
年度末におけるコロナウイルスの感染拡大の影響により、当助成研究を共同して遂行する修士課程学生の予定や研究資材の遅れ等があり、2019年度後半における研究遂行予定に大幅な変更があった。また、本研究遂行で雇用予定であった、実験補助員の公募を行ったが本研究遂行に適切な人材の応募がなく、雇用して遂行することができなかった。また、研究計画当初想定していた鍵出発物質の合成が困難であると分かり、新たな合成経路を提案し遂行したことで、当初の計画よりやや遅れることとなった。しかし、新合成ルートは2019年度で明るみになった問題点が改善され、かつ、これまで検討した合成ルートにおけるノウハウを活かすものとなり、また、本助成で購入した小型有機溶媒精製装置により実験時間の大幅な短縮が見込めることから、2020年度における大幅な研究の促進ができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度では、2019年度の合成経路を継承しつつ問題点を解決したジアルキンを前駆体とした新たな合成経路を検討する。また、それとともにピレンを基質とした歪曲環状化合物の合成および構造同定を行う。まず、確立した手法により、ジアルキンをもつ化合物を合成する。次に、アルキンへのsyn付加と分子内還元的カップリング反応を行うことで、ホウ素元素を導入する。例えば、BBr3との反応により連続的に反応が起こす。前駆体の構造を同定するとともに、安定性を評価する。得られた前駆体を最終的にクロスカップリング反応を行うことで目的物質の合成を実現したい。この研究において、中間体が空気中で取り扱いが困難であることが予想されるため、アルゴン雰囲気下で反応が行える、グローブボックスの導入を本助成金を用いて導入することを考えている。 またピレンを基質とした合成経路では、クロスカップリング反応を検討する。すでに実験を行っており、通常の条件では進行しなことを見出している。今後、温度などの反応条件を変更することで効率よく歪曲環状化合物が得られる条件を見出す。得られた化合物はいずれもX線構造解析によってその構造を明らかにするとともに、各種分光学測定によって曲面にホウ素元素が導入された効果を明らかにする。 以上の研究は研究代表者と本年度新たに採用した研修員とで進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に研究補助員を雇用し、研究を遂行する予定であった。公募を行ったが、研究内容に適した補助員の応募がなかった。追加で公募を行ったが、新型コロナウイルスの影響もあり、結局2019年度中では雇用に至らなかった。また、旅費についても参加予定であった年度末の学会が中止となったため、使用額の変更に至った。また、研究遂行中に研究遂行に必要な物品の購入が必要となった。2019年度10月からの消費税増税に伴い、納期が大幅に遅れる見込みであったため、2020年度に購入することに計画を変更した。以上の理由から、2019年度の使用額を大幅に減額し、2020年度に繰り越すことにした。 2020年度では、2019年度人件費にあてていた費用をむしろ実験時間短縮に繋がるカラムや精製溶媒などの消耗品に充てることで研究の大幅な加速を図る。さらに、嫌気下で実験を行える機器の購入にあてることで、研究目的達成の実現に繋げる予定である。
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